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新しい時代のITリーダーに求められるスキルとは?

新しい時代のITリーダーに求められるスキルとは?

テクノロジーは常に進化し続けています。IT業界のリーダーは、その進化に対応するために、日々新しいスキルを学び続けなければなりません。では、今後IT業界で求められるリーダー像とはどのようなものなのでしょうか。
 
コンサルティング会社のデロイトが2020年5月に発表した「グローバル・テクノロジー・リーダーシップ(英語のみ)」の調査によると、ほぼ10人に7人(69%)が、IT業界のリーダーに組織内の変化を促す存在になることを期待していることが分かりました。69カ国、22業種、1,300人以上が参加したこの調査では、最高情報責任者(CIO)の役割の変化を調べ、新型コロナウイルス感染拡大以降、ITのリーダーは主にビジネスの共同創設者、信頼できる経営者から、より活動力のあるリーダーへと変化していることも明らかになっています。この報告書では、不確実性が続く中、企業はIT業界のリーダーにレジリエンス(回復力)、臨機応変に素早く対応する力、将来的な視点を必要としていることが明らかになりました。
 
通信会社マネーペニー(英語のみ)のCTOであるピート・ハンロン氏は、新型コロナウイルス感染流行によってIT技術のあり方が一変したと述べています。「新型コロナウイルスによって、技術的に何を実現できるのか、何が実現されようとしているのかを考えるようになりました。また、私たちがIT技術によって促進される人間同士の交流を強く望んでいることも浮き彫りになっています。この2つの要素が合わさって、私たちが新しい未来に踏み出すとき、世界のコミュニケーションのあり方が形作られるのです」と指摘します。
 
同じような原理が、現在と未来のIT業界のリーダーにも当てはまる、とハンロンは言います。「もう、オタク的なIT担当者が機械の後ろに頭を突っ込んで、延々と続くコードの画面を見ている時代ではありません。現在では、優秀な人材を呼び込み、思いやりと、自信を与えることができるような企業文化の中でその実力を引き出してあげることが重要です。話を聞き、共感し、協力し、起業家精神とイノベーションを奨励し、安心して挑戦できるような環境を作ることが欠かせません。全体として、それは共通の目的のもとに人々を集め、その潜在能力を最大限に発揮できるように育てることなのです」。
 

人間性と技術力

英通信大手BTの元グループテクノロジーオフィサー/CIOで、現在はエグゼクティブコーチであるポール・エクセルは、今後数年間はいわゆるソフトスキルがより重視されるだろうと言います。「リーダーは、心理的な安全性を確保し、社員が最高の能力を発揮できるような環境を整えることがますます重要になります。同僚との関係を築き、レジリエンス、好奇心、共感を育むことが欠かせません」。
 
本物の聞き手であることや起業家精神、優れたコミュニケーション能力、これらはすべてIT業界の将来のリーダーに不可欠なスキルであるとエクセルは述べています。
 
米国ソフトウェア会社PluralsightのEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域のシニアバイスプレジデントであるシーン・ファリントンは、今後数年間、リーダーの役割に変化をもたらす主な要因は技術的なスキルであると述べています。
 
「人工知能(AI)や機械学習、ロボット工学、ナノテクノロジー、3Dプリンター、遺伝学、バイオテクノロジーなど、これまでバラバラだった分野の発展が、互いに積み重なってより大きな進歩をもたらしています」と指摘します。
 
「中には現状を打破し、人々の生活や仕事のあり方を変え、価値観を変える可能性を秘めた技術もあります。モバイルインターネット、AI、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、クラウド技術、IoT、高度なロボット工学などが、人々がスキルアップする必要がある上位の分野です」。
 
では、将来に向けて人材を育成するために、どのようにすれば良いのでしょうか。「素晴らしい、本物のロールモデルになりましょう」とエクセルは言います。「そして、学習と成長の場である新しい分野や、コンフォートゾーン(自分にとって快適で心地の良い空間)の外に出る機会を与え、彼らを後押ししてください。そして、彼らを成長させるためには、どのようにしたら良いのか常に考えることが必要です」。
 

次世代のIT業界のリーダー像

ドイツの化学・消費財メーカーであるヘンケルのように、従業員が次世代のリーダーとなるために適切なITスキルを身につけられるように学習・研修制度を用意している企業もあります。
 
デジタル変革のプロセスを成功させるには、人にフォーカスすることが重要です。ヘンケルの広報担当者は、「従業員が現在および将来的に必要とされるITスキルと知識を確実に身につけるため、ヘンケルは世界中の全従業員を対象に、各従業員に合ったIT特化型のトレーニングセッションを提供し、会社の変革を促進しています」と述べています。
 
また、ヘンケルは2019年末に最高デジタル・情報責任者(CDIO)を新設しました。デジタル化は、ヘンケルの企業戦略の中心的な柱であり、また、人材フォーカスしていくことも重要です。ヘンケル全体のデジタルおよびITチームは、最高経営責任者(CEO)直属のCDIOのリーダーシップのもとに統合されます」と、広報担当者は付け加えています。
 

企業の規模によって求められるリーダー像が違うケースも

しかし、大企業とスタートアップでは、求められるスキルが異なるのでしょうか。ソフトウェア会社Panintelligence(英語のみ)のCEOであるザンドラ・ムーアは、一言で言えば「イエス」だと言います。「大企業では、自分の役割をより専門化していく傾向があります。そのため、IT業界のリーダーは、イノベーション、エンジニアリング、製品など、組織内の特定の分野の専門家になる可能性があります。 しかし、新興企業や小規模の企業では、「何でも屋」である必要があるとムーアは言います。「特に私たちのような50人程度の技術系企業では、ほとんどが革新者かつエンジニアであり、また多くの場合、最終的にソリューションを展開し実装することができる人材である必要があるのです。最高技術責任者(CTO)は、基本的に製品を作り上げ、その製品を人々が使うようにするための設定や製造に携わることができる人物です。
 

多様なIT人材のパイプラインを構築する

多様なリーダー人材のパイプラインを確保すること、特に女性や不利な立場にある人々がリーダーになるためのルートを作るためには、常にフレッシュな人材を採用し続けることが重要です。フードテック(最新のIT技術を活用して新しい食品や調理方法などを生み出す)のスタートアップ企業であるUpprinting Food(英語のみ)の創業者、エリゼリンデ・ファン・ドーリウィードは、このように語っています。「新しい人を会社に迎え入れるのは良いことです。しかし、最近の新卒者は、最新の会社のやり方や事例を教育されることが多いのです。上司や先輩が決めたやり方に従うのではなく、彼らのビジョンを取り入れ、会社の構造や実務などについて一緒に考え、改善を続けることが重要です」。
 
ファリントンは、より多様なリーダーシップを発揮し、より多くの女性をひきつけるためには、メンター制度などのサポートも重要であると言います。「企業は、女性がリーダーシップの道を歩む上で直面する課題を、メンター制度などのサポートでどのように解決できるか考える必要があります」。また、社内にD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の責任者を置くことも重要だとムーアは言います。「何が必要で何が欠けているかを評価し、社内に必要な人材のパイプラインにアクセスできるパートナーと協力することで、そのギャップを埋めることができます。まず、スキルや多様性など、何が不足しているのかを把握する必要があります。しかし、そのためには、誰かが社内でその課題を管理し、それに対して評価を行い、現状とあるべき姿を把握することから始まります」。
 
そして、将来リーダーになることを目指す技術者に、リーダーはどのようなアドバイスをすることができるのでしょうか。一言で言えば、「スキルアップ」だとファリントンは言います。「スキルアップができれば、自分のキャリアパスがどこであろうと、新しい役割を担い、新しいテクノロジーを使って仕事ができるようになります。新型コロナウイルス感染拡大によって、多くの企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが加速していることもあり、スキル向上はかつてないほど重要です」。 また、ファリントンは、スキルアップと学び直しが経済回復の重要な要素になると考えています。「トップダウンの考え方も重要で、リーダーは時間をかけて自分自身をスキルアップさせ、従業員に自分の価値を示す必要があります」。 結局のところ、IT業界のリーダーは、自分たちの業界とその先の変化に対応するために、進化し、適応しなければならないのです。しかし、コロナ禍から学んだことがあるとすれば、それは、変化は避けられないということ、そして、予想外の事態を想定しておくということです。
 
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ジェームズ・ミリガン
グローバル・ヘッド・オブ・テクノロジー
2000年入社。グローバル・ヘッド・オブ・テクノロジーとして、ヘイズのテクノロジー・ビジネスの戦略開発を担っている。

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