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静かな退職の実態と従業員エンゲージメントの向上策

静かな退職の実態と従業員エンゲージメントの向上策

最近インターネットでニュースを読んだり、新聞を手に取ったりした人は、TikTokで話題になっている「静かな退職(Quiet quitting)」について耳にしたことがあるかもしれません。
 
ある人にとっては、静かな退職とは求められる以上の仕事はしないことを指し、「ハッスル文化」に対する拒否反応でもあります。また、ワークライフバランスの向上のために仕事とプライベートの境界線を引くことと捉えている人もいます。
 
近年、ビジネスの世界の変化について詳しく話してきました。新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の優先順位が変わり、自分の人生や仕事に何を求めるのか見直すようになりました。
 
Great resignation(大量離職)」と同様に静かな退職が注目を浴びているのは、このような変化も要因の1つです。実際に、静かな退職は大量離職の次の段階ではないかと考える評論家も存在します。本当に退職する人もいれば、仕事に対する姿勢を変えて必要最低限の仕事だけをする静かな退職を選ぶ人もいるのです。
 
また、静かな退職は中国の「寝そべり族」に続くものでもあります。BBCの報道によると、「寝そべり族は厳しい仕事から離れることを意味します。このような流れは2021年から始まり、多くの人が、一生懸命に働き同僚より結果を出さないといけないというプレッシャーに感じていたことから起きたものです」。
 
静かな退職は企業にとって何を意味するのでしょうか?リーダーとして、この現象が社内で起きていて従業員エンゲージメントに影響を与えているかどのように確認でき、どう対処すればよいのでしょうか?
 

静かな退職と生産性

企業は従業員に対し仕事にやりがいを感じてほしいと考えており、世界的な経済情勢からこれまで以上に意欲的な人材を必要としています。だからといって、従業員が働きすぎやバーンアウト(燃え尽き症候群)になるようなことがあってはいけません。
 
現在、生産性が低下しているのは事実。米国では、第2四半期の非農業部門の労働者の生産性は前年同期から2.5%低下しました。労働統計局によると、これは1948年以来最も急激な落ち込みです。
 
世界的に見ても、2021年の労働生産性は停滞し、今後も同様の傾向が続くことが予想されています。全米産業審議は、「2022年に生産性が伸びないのは、ウクライナでの戦争が大きく影響しています。さらに、消費財とサービス業の成長が鈍化し、平均以下の生産性に戻ることによってもたらされた新型コロナウイルス感染拡大の長引く影響が、2022年の成長率にネガティブな影響を与えそうです」と述べています。
 
そのうえ、米国では仕事への不満を表す数字が過去最高となっています。ギャラップが発表した「世界の労働環境の現状」レポートによると、幸せでなく意欲がない従業員が世界経済に与える損失は7兆8000億ドルにものぼると言われています。
 

社内で静かな退職が起こっていることに気づくには

マネージャーやビジネスリーダーはまず、社内で静かな退職が問題になっているか確認する必要があります。しかし、静かな退職が起こっていることを示すサインは何でしょうか?
 
Vistage Worldwideのチーフリサーチオフィサーであるジョー・ガルヴィンはForbesのインタビューのなかで、静かな退職の兆候として以下のものを挙げています。
 
  • 長期的にエンゲージメントが低い
  • 必要最低限の仕事しかしない
  • チームで孤立している
  • 不必要な会話や活動、業務をしない
  • ミーティングに出席しても発言や行動はしない
  • チームメンバーがその人が仕事していない分を補うために仕事量が増えたと報告している
 
ビジネスリーダーにとっても、従業員にとっても見覚えのあることではないでしょうか?上記に当てはまる場合は、このようなことが起こっている原因をつきとめ、対処すべきです。
 

従業員のエンゲージメントを高めるためには

どのように定義するにしても、静かな退職はビジネスリーダーが認識すべきものであり、企業によってはすでに対処するために計画を立てているところもあります。最近、ヘイズ・オーストラリアの同僚が、静かな退職について企業と従業員の双方がどう対処すべきか書いてくれました(英語記事はこちら)。その記事では「従業員のエンゲージメントを高めるためには、従業員がやりがいのある仕事をできるようにリーダーたちがサポートすることと、チームやビジネス全体で質の高いつながりを生み出すことが重要です」。
 
「従業員がチームの一員として重要なことに取り組めていると感じられることが大切です。リーダーには、チームメンバーが一丸となってより高い目的に対して十分に貢献できていると感じられるような、包括的な文化を持つ職場を作る責任があります」。
 
もちろん、給与はどのような人にとっても重要な要素であり、従業員が退職を考える理由になりえます。しかし、必ずしも一番の理由になるとは限りません。
 
EVP(従業員への価値提案)は充実しているでしょうか?従業員のモチベーションは何なのか、そもそもなぜ自社で働こうと思ったのかを認識することが重要です。企業文化や価値観、サステナビリティの目標をアピールすることで、エンゲージメントが低くなった従業員の意欲を高められる可能性があります。
 
これまでと何か変わったことはあるでしょうか?それとも何も変化していないでしょうか?企業の価値観が現代の労働環境に適しないのであれば、対処すべき時が来ているのかもしれません。
 
柔軟な働き方を十分に推進できていなかったり、オフィス出社に戻るように促していたりしていませんか?従業員からハイブリッドワークを取り上げてしまうと、離職につながる可能性があります。以前、「企業がハイブリッドワークを真剣に検討すべき理由。採用活動へのメリットとは?」という記事を書きました。ハイブリッドワークの実現には、マネージャーや従業員へのサポートが不可欠です。十分なサポートができていない場合、静かな退職が起こる原因になるかもしれません。
 
10月のメンタルヘルスデーは、従業員の健康について考える良い機会です。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、多くの人が在宅勤務やロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされ、バーンアウト(燃え尽き症候群)について耳にする機会が増えています。このような状況や、「ハッスル文化」に対する拒絶反応の結果として、退職が相次いでいると考えられます。従業員が高いエンゲージメントと生産性を持つことは重要ですが、ウェルビーイングを無視してはいけません。バーンアウトを防ぐために、やれることはすべてやるべきです。
 
世界中の経済が停滞している今、企業は従業員の意欲を高め、彼らの声に耳を傾け、仕事にやりがいを感じられるようにすることが重要。そのうえでリーダーは、静かな退職がすべてモチベーションによるものではないことを認識し、従業員への要求が適切なものであるか、考えてみることが大切です。従業員がバーンアウトや仕事に関する悩みをオープンに相談できるような環境づくりが欠かせません。
 

静かな退職―変化に適応する時

この問題の大きなポイントは、従業員のモチベーションを上げるためにすべての人に合ったアプローチはないということです。すべての従業員が静かな退職をするわけではなく、静かな退職をする人も全員が同じ理由から行うわけではありません。世の中の変化により、人や職場は進化します。
 
同様に、静かな退職は新しい言葉ですが、その概念は以前からあります。すべての人材を永遠につなぎとめておくことはできません。人々は、キャリアのさまざまな局面で新たなチャレンジを模索するもの。従業員のニーズに応えることは重要ですが、全員のモチベーションを100%引き出すことができなくても、自分を責める必要はありません。
 
それよりも、従業員のモチベーションを維持するために何ができるか考え、従業員の転職は避けられないことであることを受け入れる方が合理的です。そして、新しい人材を迎え入れる際には、プライベートも充実できる魅力的な職場文化を整えることが重要。
 
どのような結論に至ったにせよ、静かな退職が起きる原因を探ることは、やってみる価値のあることです。人々が職場でもプライベートでも充実するためには、しっかりとした境界線を引くことが大切です。
 
皆さまが静かな退職にどのように対処しているのか、ぜひお伺いしたいです。LinkedInで、皆さまのご意見をお聞かせください。
 
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著者

アリスター・コックス
ヘイズCEO
2007年9月にヘイズのCEOに就任。1982年に英国のサルフォード大学で航空工学を学んだ後、ブリティッシュ・エアロスペースの軍用機部門でキャリアをスタート。1983年から1988年までシュルンベルジェに勤務し、ヨーロッパと北米の石油・ガス産業において現場や研究の職務に従事した。
1991年にカリフォルニア州のスタンフォード大学でMBAを取得し、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとして英国に帰国。マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、エネルギー、消費財、製造業など、さまざまな分野を経験した。
1994年、ブルーサークルインダストリーズに転職し、グループストラテジーディレクターとして戦略立案や国際投資を担当。この間、ブルーサークルは新しい市場で重量の重い建築材料に焦点を当てた事業を展開し、1998年にはマレーシア・クアラルンプールを拠点にアジア事業を統括するリージョナル・ディレクターに就任。また、マレーシアやシンガポール、フィリピン、インドネシア、ベトナムの事業を担当し、2001年のラファージュによるブルーサークル買収後は、ラファージュのアジアのリージョナル・プレジデントとして、同地域の事業責任も担った。
2002年には、ITサービスおよびバックオフィス処理会社であるXansaのCEOとして英国に帰国。Xansaでの5年間の在職中に、組織の再編成を行い、英国を代表する官民両部門のバックオフィスサービスのプロバイダーとなり、インドに6,000人以上の従業員を擁する、この分野で最も強力なオフショア事業を構築した。

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