インサイドストーリー:HR市場の現状(2019年)

インサイドストーリー:HR市場の現状(2019年)

働き方改革関連法への対応でシニアレベルの人事担当者のニーズが増加
日本の労働市場はかつてないほど複雑化しており、近年、多くの課題に直面しています。その1つとして、急速な高齢化によって慢性的かつ深刻な人手不足が引き起こされており、それにもかかわらず、賃金の上昇はほとんど見られないことが挙げられます。一方で、日本の失業率は史上最低を維持しています。最近になって、失業率が急上昇したものの、こちらも市場に参入する求職者の増加を示すと好意的に受け止められています。しかし、特に前向きな進展の1つと言えるのが、「超過労働」慣習の是正を目的とした「働き方改革関連法」が施行されたことです。結果、戦略上重要なシニアレベルの人事担当者(以下、HR)をめぐる採用活動が活発化し、人事情報システム(HRIS)の利用が増えています。この動きは、採用担当者および人材獲得スキルの安定した需要をもたらしています。

企業の戦略的ビジネスパートナー(HRBP)の需要が増加
日本の新しい「働き方改革関連法案」は2018年に可決され、日本の労働法が大きく改正されることとなりました。同法には、残業時間の上限の明確化、年次有給休暇取得の義務化、従業員の健康の監視に向けた取り組みといった事柄が盛り込まれています。改正点の大多数が2019年4月より施行され、雇用主は早急な対応と新要件の順守を迫られています。これを受けて、人事担当者の求人が増加する結果となっています。
ヘイズ・ジャパンでコンサルタントを務める石田 永(イシダ・ハルカ)は次のように述べています。「同法の施行以降、企業はワークライフバランスについて真剣に受けとめるようになっています。今年に入って多くの組織がフレックスタイムや在宅勤務の制度を導入し、産休や育児休暇の制度の改善を図っています。就職先を評価する際にこれらを基準として用いる求職者も増えています」。このような状況が、上層からの制度改革の促進を支援し、この過渡期を乗り越え、企業を導く戦略的HRビジネス・パートナー(HRBP)の需要の伸びにつながっています。

人事管理のデジタル化が進行
従業員の就労記録などのデータ管理のペーパーレス化を進める企業が増える中、残業の削減や従業員の健康の増進を図るため、HRISやデジタル機能に注目が集まっています。Excel、もしくはWorkdayなどの基本的なHRソフトウェアを使用している企業の多くが、システムのアップグレードを開始するとみられます。その一方で、大手IT企業などのいわゆる「アーリー・アダプター(早期導入者)」は、残業時間、人員数、人材管理の分析にすでにHRISを使い始めています。「これは、HR担当者がデータ利用を次のレベルに高め、従業員の問題を解消するための戦略的ソリューションを生み出すことに貢献しています」とイシダは述べています。

しかし、新しいスキルや職種の流入にもかかわらず、市場では明らかな人材不足が続いており、報酬面では有資格者が優位な状況となっています。石田は次のように説明しています。「伝統的に、日本企業は社員の早期離職を嫌い、新入社員の内から賃金を大幅に上げることをよしとしない傾向があります。しかし、私が企業に常に言っているのは、社員の過去、現在の給与がいくらであるかといったことはもはや問題ではないということです。大切なのは市場基準に合わせることであり、意欲的な競合他社の元へ社員を流出させないようにすることです」

求められるスキル:直接調達、バイリンガルスキル、戦略的経験、ITスキル

深刻な人材不足が続く中、市場には採用担当者や人材獲得のスペシャリストの求人があふれており、多国籍企業を含むほとんどの企業で、これらの求人がジュニアレベルから中堅レベルの求人のニーズの中心となっています。石田は次のように述べています。「ほぼ全ての企業が採用担当者を求めており、特にスタートアップや大手IT企業ではこの傾向が顕著です。原因としては、日本市場が他のアジア太平洋地域の国々と大きく異なっている点が挙げられます。地域の採用担当者の多くが日本人従業員のリモートでの管理に苦慮しており、企業は直接調達のスキルを持つ日本人の採用担当者を採用したがるというわけです」。直接調達は採用担当者に特化したスキルであり、これを理由に企業が人材派遣会社に頼るケースが多く見られます。これとは別に、バイリンガルであることも需要の高いスキルとなっています。これは、採用担当者がグローバル・オフィスや地域のオフィスと頻繁にやり取りする可能性が高いためです。キャリア・コンサルタントの資格もまた一般的な資格となっています。

上級職では、HRBPの需要が最も高くなっており、その理由の一端は日本における意識の変化にあると考えられます。これについて、石田は次のように指摘します。「従来、日本のHR事業は極めて実務的で、給与処理、社会保険、出勤報告等を中心に展開していました。しかし、最近になって、顧客管理や組織開発など、HRに特化した多くの戦略が存在することに多くの組織が気づき始めています」
また、明確なキャリアパスが見込めないと分かった場合に企業を去る社員が多い状況下において、HRBPは従業員のつなぎとめを促進する上でも重要な役割を担います。「10~20年は同じ会社で働くのが普通で、職を転々と変えるのはよくないこととされていました。しかし、最近では、3~6年で転職する求職者に対しても企業はより柔軟に対応するようになっています。したがって、正当に評価されていないと感じたり、キャリアプランが見いだせない場合には、躊躇なく離職するという若い人材が増えています。有能なHRBPは極めて重要な役割を担い、セールスからエンジニアまで全ての部門間の関係を強化させる上で、人事部門は欠かせない存在となっています」

しかし、比較的新しい職種であることに加え、MBA保有者であることや、人材管理やステークスホルダー管理などの分野において数年間、戦略的HRプランを担当した経験を有していることが応募条件となるケースが多いことを考えると、HRBPは人材の調達が最も困難な職務の1つと言えます。それとは別に、人材不足が理由で、多くの企業が同じようなタイプの人材の争奪戦を繰り広げています。特に人気が集中しているのがバイリンガル人材です。また、多くの企業が若い人材を雇用することで従業員の平均年齢の引き下げを図っています。しかし、若い人材はHRBPの職務に必要な経験を持っていない場合が多く、ジレンマが生じる結果となっています。3~5年の間、HRゼネラリストとして働いた経験のある若い人材で妥結しようという動きも一部に見られるものの、柔軟性が欠如した状態では持続可能性が危ぶまれると、石田は警鐘を鳴らします。

HRにおけるITスキルの需要も年々高まっています。特に、Workday、Peoplesoft、Taleoといったソフトウェアを用いる給与処理、および人事事務において多くの需要が存在します。

ブランディングの取り組みと福利厚生の強化

現在の日本の雇用市場で、熾烈な競争が繰り広げられる中、雇用主ブランディングを強化し、より多くの人材を引きつけようとする動きが高まっていることは何ら不思議なことではありません。デジタル・マーケティング/雇用主ブランディング分野の求人とあわせて、「採用ブランディング・スペシャリスト」といった新しい職務が市場で登場し始めています。「2019年に入って、インスタグラムでの求人広告も現れ始めています。求職者を引きつけるデジタル・マーケティングに投資する企業が増えれば、今後このような広告が多く見られるようになると考えられます」と石田は述べています。

また、企業ではイベントやインターンシップのための予算を増やし、手厚い福利厚生を提供するようになっています。四大コンサルティング会社の1社は最近、リフレッシュ休暇、つまり人生の節目に取ることができる特別年次有給休暇の制度を導入しました。介護休暇制度を設けている企業も多くあり、従業員が高齢の両親の介護のために休暇を取れるようになっています。サインオン・ボーナス(入社一時金)制度も一般的になってきており、特に「給与帯」や報酬レベルの制約のある企業ではこの傾向が顕著です。イシダは次のように指摘しています。「少数の人材をめぐって争奪戦が繰り広げられていることから、サインオン・ボーナスは近年多くの企業で採用されています。報酬額で競合他社にかなわない場合、最大200万円のサインオン・ボーナスを提示することが可能です」また、面接の段階で平均残業時間や福利厚生制度などの情報を柔軟に開示する企業も増えています。

近年の労働法の改正と継続的な人材不足を考えると、戦略的なHR人材の前途は明るいと言えます。「特にバイリンガル人材の場合、HR分野で新しいポジションや職務が続々と生まれています。これは数年前までほとんどの企業が想像していなかった事態です」とイシダは述べています。しかし、企業はあくまでも現実的な期待を抱き、手遅れにならないうちに若い人材の要求と有用性について厳密に評価するようにしなければなりません。

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