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Paul Riddle

Paul Riddle

Head of IT, Japan, Deutsche Bank

Deutsche Bank日本支店でIT部門を統括するPaul Riddle氏は、トライアスリートであり、CIOへの道のりに求められる忍耐力を誰よりも理解しているかもしれません。使い古された言葉で言うなら、それは短距離走ではなくマラソンであり、Paulは数えきれないほど何度も国から国へと移動しながら、キャリアを着実に積み重ねてきたのです。

 

CIOへの道

Paulの社会人としてのキャリアは、ロンドンHSBCのインベストメントバンキングから始まりました。最初にEUの経済通貨同盟(EMU)、その後ロンドンの先物取引所のオンライン取引部門に配属されました。20代の終わりに、もっと広い世界を見てみたいという好奇心に駆られ、何の保証も仕事のあてもないままに、オーストラリア行の片道航空券を買い、そこからすべてが進み始めました。

その当時のことをPaulは次のように振り返ります。「ずっと、世界の別の場所を見てみたいと思い続けていました。異なる文化を見て楽しみ、異なる経験をすることで視野は広がります。違う国に住んでみると、それまでの型にはまった自分や自分の考え方に疑問を持つようになります。そうして人間の幅が広がり、さまざまなアドバイスが得られるようになります。こうして優れたマネージャーとなり、リーダーとしても向上できるはずです。」

Paulはこの自分自身を高める旅を通じてさまざまな文化への理解を深め、そのことによって、仕事でもさまざまな角度から多様なものの見方を取り入れられるようになりました。この間、香港、シンガポールそして日本に滞在した一時期を含めて、国から国へと8度も移住を経験しています。

対人スキル

IT業界ではジェンダーダイバーシティが大きな課題になっており、Paulはこうした状況を改善することが自分の重要な役割だと考えています。20年余りのIT分野での経験で、短期的な利得だけに焦点を当てるマネージャー達を目にしてきたPaulは、柔軟な対応ができないばかりにかけがえのない人材を失い、それが長期的に見て、組織にとっての損失につながりかねないことを知っています。

「ダイバーシティを推し進めるプログラムや、特にジェンダーダイバーシティを実現することは、組織内でより良いバランスを作り上げるために不可欠です。」とPaulは指摘します。「女性の能力を高め、キャリア全体を通じてサポートしていくことは間違いなく重要で、子供がいれば子育ての支援も行います。ほんの数年の間、柔軟な対応を取ることで、後々、もっと大きな見返りが得られ、チームはより多彩な人材が得られるのです。」

あらゆる会社にとって、成功のためには優れたチームを作り上げることが重要だとPaulは考えています。「恐らくCIOにとって最も重要な資質は、人を管理するスキルであり、チームの成否はそこで分かれます。」

人を管理するスキルは、個人競技の最たるものの1つであるトライアスロンの選手にとって、たやすく身に付けられる類のものではありません。しかし、Paulはセーリングにも打ち込んでおり、これ以上ない厳しい状況に陥った時に、チームの中でリーダーシップを発揮できることがどれほど大切かということも、身をもって理解しています。実は、若い時に子供たちにセーリングを教えたことが、Paulにとってはリーダーシップ体験の始まりになったのです。彼の指示に従ってうまくゴールを達成できた子供たちの笑顔を見た時に、自分の持つノウハウを人に伝えることのメリットに初めて気づかされました。

その喜びが、今も彼のキャリアの根底にあります。2000年代の初めにCredit Suisseのシニアバイスプレジデントとしてシンガポールにサポートと開発の拠点を設立した際に味わった喜びは、特に大きなものだったかもしれません。

Paulは当時を次のように振り返ります。「当時採用した数千人の中には大きな組織で働いたことがない者も多数おり、いささか経験不足の感が否めませんでした。私たちは彼らが能力を高めるための手助けをし、リーダーの素質を持つ者がいればそうした方面での教育も多少施しました。まさに1つの家族のようなものだったのです。彼らが力をつけ、成長していく姿を見守ることで、私個人としては大いに報われた気持ちになりました。彼らの人生にとって大きなプラスになったと思っています。」

彼の下で働く人々が個人として成長し、専門的な能力を高めていくことは彼にとっても大きな誇りです。同時に、そうした能力を会社のために活かし、CIOの仕事にメリットをもたらすようにしていく必要があることも認識しています。

「組織全体が事業目標の下で足並みを揃え、正しい方向へ進んでいくために、戦略的方向性を定め、その方向性を従業員に伝えていくことがCIOの本質的な役割です。」これがPaulの意見です。

自己啓発

周辺の人たちの成長を助けるだけではなく、CIOが自らの能力を高め、自らを評価して改善できる点を洗い出すことも、同じくらい重要だとPaulは言います。

「自分の欠点を客観的に捉え、より大局的な見地から自分自身を分析できるようになれば、その点について改善に取り組むことができます。こうして改善のチャンスが高まり、コミュニケーターとしての能力を高めて、率直な意見のやり取りをしていく上で重要な役割を担うことができます」と提言します。

これまでPaulが能力開発の手助けをしてきた人々は、さまざまな会社で昇進を果たしています。その中でもバイスプレジデントになった1人とは、今も緊密に連携を図っています。しかしPaulは若い世代ならではの忍耐力のなさから、性急にCIOというゴールを目指すことについては警鐘を鳴らしています。

「若いうちは一刻も早くトップにたどり着きたいと考え、企業内の階層を駆け上がりたいと考えるものです。自分自身のことを振り返っても、シニアバイスプレジデントになった時、どうすれば取締役になれるかということを考えていました。しかし、自分にふさわしい役割が与えられるまでにはもう少し辛抱強く待たなければならず、もっと経験を積むことも必要でした。もしあの時取締役に昇格していたなら、それは自分にとって時期尚早であり、自分が思っていたほど成功できなかったかも知れません」

ここでもスポーツマンとしての彼の経験が役に立っているとPaulは言います。「もし25歳でマネージングディレクターになったとすれば、きっと35歳になることには燃え尽きてしまうでしょう。そんなに急いで旅を終わらせる必要はありません。旅を楽しみ、学び続けることです」と忠告しています。

ワークライフバランス

過去のスポーツ経験がPaulの物の見方を形作り、スキルを身に付ける上で役立っているとすれば、日常生活で気持ちをリフレッシュし、良好なワークライフバランスを保つためにもスポーツが重要な意味を持っているはずです。

「私のベストのアイデアのいくつかは、オフィスから離れてもっと自由に考えられる場所で浮かんだものです」 とPaulは言います。そうした場を得るために、毎朝5時ごろ起きてすばやくBlackberryをチェックし、ランニングやバイク、あるいはスイミングをこなした後に、早朝から仕事を始めます。彼にとって自転車での60kmのライド、2kmのスイミングが仕事上の問題についてあれこれ考えるのにパーフェクトな時間を与えてくれることに気が付きました。午後は仕事をできるだけ手早く片付けて、夕方の時間を家族のために有効に使えるよう、6時半にはオフィスを出るように心がけています。家族一緒に夕食を取ることが非常に大切だと思うからです。すっかり気分がリフレッシュされた後は、ニューヨークオフィスから深夜にかかってくる電話に自宅で応対することも厭いません。しかし、夜7時から9時の間だけは家族との時間と決めています。

「すべてのリーダーやCIOにとって、生活の中でより自由に物事を考える機会を作ることは非常に重要です。いつでも簡単にできるわけではなく、私にも仕事に追われて身動きの取れない時期がありました。しかし、週末でも常に電話に出られるようにしているとはいえ、電子メールのチェックは午前中の1回だけにして、その後は携帯を見ることはありません。」

ITの未来

ITの未来を考える時、ITシステムの合理化と最新化が最大の課題になるだろうとPaulは考えています。

この先の業界について、「ほとんどの銀行が、あまりに多くのレガシーシステムを抱えることによって生じるITの複雑化の問題に頭を悩ませています。この問題をいち早く解消して機動力を身に付けた銀行は、より多くのリソースや予算を新規テクノロジーに投じて収益を拡大させ、規制要件も効率的に実現できるようになります」と予測した上で、自社の現状については、「ドイツ銀行は当初動きが遅く、ITの効率性に着目するまでに時間がかかりましたが、トップダウンでこの問題に力を注ぐことで現在、急速に遅れを取り戻そうとしています」と説明します。

Paulにとって常に最新のテクノロジーに通じていることが重要であることは言うまでもなく、進化の方向性を予測することまで求められるものの、CIOに要求されるのは技術分野の知識だけではないと考えています。CIOが会社のあらゆる側面を頭に入れ、ITによっていかに付加価値を高められるかを把握することが何より重要なのです。PaulはIT活用によって収益を高めるためにはビジネス部門との連携が不可欠であり、そうした連携を作り上げることこそCIOにとって最も重要な役目だと考えています。長期的な業務効率を考えれば、オペレーション部門と連携して、そのためのニーズを常にしっかりと見据えておくことも重要です。

「ITはビジネスから切り離されたものではなく、むしろ今よりもっとビジネスの中核に据えられるようになります。投資銀行にとって、カラフルな上着を着たトレーダーたちが互いに叫びあう光景は今や無縁のものになり、すべては電子トレーディングシステムに切り替わりました。ITも現在では事業部門に近くなっているとはいえ、成功をもたらすためには本業分野での十分なバックグランドがなければなりません。ITは今やビジネスの世界の共通言語になろうとしていますが、その言語を効果的に使いこなすには、やはり自社が属する業界に関する知識が求められるのです。」

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