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AIは敵か味方か?ビジネスでの活用方法、親和性の高い分野や業界、導入の際の注意点を一挙公開

AIは敵か味方か?ビジネスでの活用方法、親和性の高い分野や業界、導入の際の注意点を一挙公開

生成AIが今、世界的な注目を集めています。さまざまな人がその能力を試しており、簡単な指示により数秒でテキストやプレゼンテーションの作成、アートのデザイン、旅行の計画、タスクの割り当てができます。
 
しかし、生成AIが求めることをすべてやってくれるなら、私たちの仕事がAIに取って代わるのはいつになるでしょうか?
 
私たちはすべての答えをもっているわけではありません。生成AIは常に進化しており、その可能性は素晴らしいものであると同時に、どこか恐ろしくもあります。世界的な有識者のなかには、楽観的な予測をする人もいれば、その能力に社会が追い付くまで研究を中断するように警鐘を鳴らす人もいます。しかし、明らかなのは目の前で仕事が変化を続けていることです。
 

AIは単純作業や手間のかかる仕事を代わりにやってくれる

AIに脅威を感じるのではなく、仕事を助けてくれる味方と考えるのが得策です。専門的な仕事をこなせる人材は常に需要にあるなか、生成AIは単純かつ手間のかかる仕事から解放してくれます。これにより、人間は得意とするクリエイティブ・戦略的な思考を使った仕事に集中し、さらに成長することができます。OpenAIの共同創設者であるグレッグ・ブロックマンは、インタビューで「AIはまだすべての仕事を自動化できるわけではありません。人間は、自己評価以上に能力があります」と話しています。そして、人間に備わった能力として、適応力があります。
 
ヘイズでインテリジェント・オートメーション・ディレクターを務めるティム・オルセンは、生成AIに関する動画で、人間は常に他者とコミュニケーションを取ることを好み、常に共感力を求めていると話しています。
 
労働生産性の向上を考えると、AIの導入は多くの企業にとって見逃がすことのできない機会です。マッキンゼーは、自社の記事で「AIの台頭は今日のリーダーにとって大きなビジネスチャンスの1つです。これに密接に関連しているのが、この機会を利用してAIの可能性を大規模に活用できる組織作りが課題となります」と語っています。
 
今回は、この自動化の新しい波が各分野・業界にどのような影響を与えているかに焦点を当てながら、AIがどのようにビジネスの一環に組み込まれ生産性を高めることができるかを説明していきます。
 

AIを上手く活用している4つの分野・業界

では、どのような分野・業界がこのような取り組みが行っているのでしょうか?AIを敵ではなく味方ととらえ、生成AIがもたらすメリットを享受している4つの分野・業界が挙げられます。
 

経理・財務

ChatGPTはExcelのプラグインを使用して数式を作成できます。また、ブルームバーグは、財務業務をサポートするために独自の大規模言語モデル(LLM)を開発しており、分析やアドバイザリーサービスに応用されています。その他にも、適切なプロンプトがあれば、報告書のまとめや、明細書に関する情報へのアクセスも可能です。
 
だからといって、経理や会計士の需要がなくなるわけではありません。オルセンは次のように語っています。「ChatGPTを電卓の登場と比較してみると、電卓が広まった1980年代に、何千人もの会計士が解雇されるようなことはありませんでした。むしろ電卓が生産性を向上させたのです」。
 
膨大なデータから即座に知見を得られるようになったことで、より良い情報に基づいた意思決定ができるようになりました。
 
反復作業や手間のかかる仕事にAIを活用することによって、人の手が空きます。その空いた時間で、AIには(今のところ)できない問題解決や社内外の関係構築など、ソフトスキル(ヒューマンスキル)を要するタスクに集中することができます。
 

建築・不動産

建築家のジョン・W・リンチは、ChatGPTを用いた建物の設計についてこのように話しています。「私が学んだことは、自動化によって自分の役割がなくなるかもしれない不安というより、手抜きができる無料の便利な手段は見つけられなかったということでした。むしろ、新しいアイデアや新鮮な視点の獲得につながりました」。建築家の代わりではなく、インスピレーションの源としてとらえているということです。
 
私も、建築家である友人とMidjourneyを使ってみた経験があります。このツールが作成した家のデザインは純粋に美しく住みたいと思えるもので、創造力を刺激してくれました。
AIには他にも使い道があります。たとえば、Togal.AIは必要な資材量の算出を高速化するツールです。図面を分析し、プロンプトで調整を自動化することで、通常1クリックずつ行わなければならない作業をより早く行えます。同社のCEOであるパトリック・E・マーフィーは、Togal.AIは労働力の削減というより、顧客の時間節約に貢献すると考えています。「人が3~5日かけて手動で行っていた作業が10秒程度でできるようになり、その分価値の高い仕事に集中できるようにします」
 
また、コンプライアンスに関して、生成AIは建築基準法違反の発見のみならず、修正も可能。しかし、この技術の維持・アップデートには専門家の手が必要となり、人が果たす役割は非常に大きいといえます。
 

カスタマーサービス

カスタマーサービスにおけるAIに関しては、すでに私たちの多くが経験しているでしょう。オンラインチャットボットに問い合わせをすると、必要な情報を案内されることが一般的になってきています。そして、チャットボットが対応できない場合、その問題を解決できる人間に転送されます。
 
結局のところ、ChatGPTやGoogleのBardはチャットボットをより進化させたものです。ただし、複雑なプログラミング言語を使用し、人間の質問を理解できるようになると、よりスムーズなユーザー体験が実現します。問題解決のスピードはさらに加速し、顧客満足度の向上につながります。
 
AIでは処理できない要望を管理する人間がいなければ、成果も水の泡です。顧客満足度の高い体験を提供するためには、サポートセンターには引き続き人間的な対応が必要です。オルセンは「単純なリクエストの大半は、チャットボットなどの自動化されたチャネルで処理されるようになるでしょう。一方、苦情など共感や感情知性(EQ)を必要とする問い合わせは人間が対応することになります」。
 
AIがサポートできるのは、顧客だけではありません。社内でもAIツールの活用によって、より良いサービスを提供できるようになります。マッキンゼーの記事では、「AIがサポートする顧客サービスモデルは、デジタルセルフサービスチャネルだけでなく、支店やSNSプラットフォームなどすべての接点を網羅し、AIがリアルタイムで従業員をサポートできるようになり、結果的に高品質のサービスを提供することができます」と指摘されています。
 

IT

組織のサイバーセキュリティにおける最大の弱点は、機械ではなくヒューマンエラーであるとよく言われます。従業員のデータから学習するAIモデルにより、セキュリティチームはコストのかかる侵害につながりかねない行動を予測し、防ぐことができるようになりました。Microsoft Copilotはすでにさまざまな方法でセキュリティチームをサポートし、予防的な対策や迅速な対応につなげています。
 
GPT-4のローンチで最も目を引いたのは、OpenAIが簡単なスケッチでウェブサイトページを作成する方法を披露したことでした。既存のソフトウェア開発者にとって、どのような意味をもつのでしょうか?生成AIを使えば、ジュニアレベルの開発者がより多くの成果を上げられるだけでなく、シニアレベルの人はエラーをチェックする時間を節約して戦略的な仕事により集中することができるようになります。
 
経理・財務業務と同様に、開発者のあり方を根本的に変える可能性があります。経験豊富なプログラマー、コリー・ガスパードは次のように話しています。「AIが必要なコードの70~90%を生成できるようになれば、開発の手のかかる部分を大幅に削減できます。ソフトウェア開発の焦点は、アーキテクチャやフレームワーク、統合、市場にアプリケーションを投入するための戦略などの理解にシフトするでしょう」
 

AIを導入する際に考えるべき3つのポイント

まだ生成AIによる影響が出ていないとしても、企業に影響を与えるようになるのは時間の問題です。AIの成長余地を考えると、AIの導入によって従業員が何を達成できるかは考えるに値します。
 

・従業員にどのような影響を与えるか

AIが雇用の減少をもたらすと考える人もいますが、このAIの進化において人が果たすべき役割をリーダーが明確に保証することで、倫理的かつ責任ある行動とはどのようなものかを考える必要があります。
 

・AIに何を任せるか

ChatGPTに入力する情報はすべて、モデルを改善するために保存・保持されることに注意する必要があります。そのため、機密情報や個人情報の入力は避けるべきです。AIツールは個人の生産性向上のために使用するべきであり、意思決定に活用すべきではありません。
 
データの取り扱いの主導権を人間が握り、機密情報を誤って公開しないように、従業員にトレーニングを提供することも大切です。重要なデータを保有する企業は、外部のAIに情報を決してさらさないように注意すべきだという議論がすでに巻き起こっています。今後、世界はますますファイアウォールから遠ざかっていくのでしょうか?おそらく人々は、自分の所有物や自身の価値を裏付けるるものを守ろうとするでしょう。
 

・従業員をどのようにスキルアップするか

AIによって生まれた時間を活用して、従業員が潜在能力を発揮しビジネスに利益をもたらすようにするために、どのようにスキルアップできるでしょうか?その秘策として「アナリティクスアカデミー」の設立が提唱されています。これは、暫定的なアプローチとは対照的なもので、企業のAIトランスフォーメーションのニーズに合わせて、アナリティクス・トランスレーターのスキルなどの専門知識を身に着けられる社内トレーニングプログラムを指します。
 
オルセンが言うように、「リーダーは、ITスキルへの需要の変化を予測し、拡大するスキル不足を克服する計画を立てるだけでなく、GPTなどの自動化ツールを上手く活用し、生産性向上により不足分を解決する必要があります。当面の優先課題は、従業員がこのような新しいテクノロジーを確実に活用できるようにして“AI音痴”にならないようにすることです」。
 
2022年後半から始まったAIの爆発的な普及は、大きな時代の分岐点であることは間違いありません。AIは今後も存在し続け、多くの人々の人生やキャリア、企業に影響を与えていきます。それゆえ、黎明期の今、AIへの対応を進めることは急務なのです。
 
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著者

アリスター・コックス
ヘイズCEO
2007年9月にヘイズのCEOに就任。1982年に英国のサルフォード大学で航空工学を学んだ後、ブリティッシュ・エアロスペースの軍用機部門でキャリアをスタート。1983年から1988年までシュルンベルジェに勤務し、ヨーロッパと北米の石油・ガス産業において現場や研究の職務に従事した。
1991年にカリフォルニア州のスタンフォード大学でMBAを取得し、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとして英国に帰国。マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、エネルギー、消費財、製造業など、さまざまな分野を経験した。
1994年、ブルーサークルインダストリーズに転職し、グループストラテジーディレクターとして戦略立案や国際投資を担当。この間、ブルーサークルは新しい市場で重量の重い建築材料に焦点を当てた事業を展開し、1998年にはマレーシア・クアラルンプールを拠点にアジア事業を統括するリージョナル・ディレクターに就任。また、マレーシアやシンガポール、フィリピン、インドネシア、ベトナムの事業を担当し、2001年のラファージュによるブルーサークル買収後は、ラファージュのアジアのリージョナル・プレジデントとして、同地域の事業責任も担った。
2002年には、ITサービスおよびバックオフィス処理会社であるXansaのCEOとして英国に帰国。Xansaでの5年間の在職中に、組織の再編成を行い、英国を代表する官民両部門のバックオフィスサービスのプロバイダーとなり、インドに6,000人以上の従業員を擁する、この分野で最も強力なオフショア事業を構築した。