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IDWGIS Interview with Noriko Osumi

科学における女性と女児の国際デー
東北大学副学長 大隅典子教授へインタビュー

 

「無意識の偏見を取り除こう」 – 東北大学副学長 大隅典子にSTEM(科学、技術、工学、数学)分野における女性の進出についてお話を伺いました。

―シェイク・バロー (ヘイズ・ジャパン シニアマネージャー)
 
ヘイズは国際女性デーに際し、女性科学者の第一人者である大隅典子教授にインタビューを行いました。大隅教授は東北大学の副学長(広報・ダイバーシティ担当)を務めており、2018年に総長教育賞を受賞しています。また、脳科学者として脳の発達について研究を行っており、自閉スペクトラム症(ASD)やニューロダイバーシティに大きな関心を寄せています。日本における著名な女性科学者の1人であると同時に、男女平等の熱心な支持者であり、次世代の科学を担う女性の育成に力を入れています。2006年には、次世代の女性科学者の育成を目指す東北大学サイエンス・エンジェル(後にサイエンス・アンバサダーに名称変更)を創設し、スペシャルアドバイザーを務めています。

 

大隅教授は、特にSTEM(科学、技術、工学、数学)分野における女性割合の低さを改善すべく戦い続けてきました。若い世代にインスピレーションを与え、啓蒙するためにより多くの女性のロールモデルが必要であり、それによって無意識の偏見をなくすことができると信じています。親や教師、生徒がそのようなロールモデルに触れる機会が多ければ多いほど、科学や業界におけるキャリアについてよりよく理解してもらえるようになると考えているのです。
 

科学に興味をもち始めたのはいつごろでしたか?

私の両親は2人とも生物学者でした。亡くなった父は、海洋生物学者でクジラ(海生哺乳類)の研究をしていていました。母は酵母の研究をしており、1960年代から日本ではまだ珍しかった電子顕微鏡を使って、さまざまな種類の酵母の細胞を研究していましたので、ある意味パイオニアと言えます。
 
私の家では科学が身近なものでしたから、生物学に興味をもつのはごく自然なことでした。18歳で大学に入学したとき、「どうすれば社会に貢献できるのか?」と自分に問いかけました。直接人を治す仕事がしたいと思い歯学部に入りましたが、やがて臨床よりも何かを解明する方が好きなことに気づき、この20年間神経科学の研究開発に携わっています。
 

大隅教授は科学における男女平等の推進する東北大学アンバサダー・プログラムの創設者のおひとりですよね。女性をはじめ科学を志す人にとって、障壁・課題となるのは何だと思われますか?

欧州やアメリカとは少し状況が異なるため、日本の現状から話す必要があります。日本では、女性がSTEM分野に進むことに対してまだまだ無意識の偏見が残っているように思えます。それは(1)女性は文学や心理学、その他の社会科学の分野に興味をもつべき、(2)工学や化学は女性のための分野ではない、などです。このような無意識の偏見は、日本ではよく見られます。
 
このような無意識の偏見を取り除いていくことが重要だと考え、サイエンス・エンジェル(後にサイエンス・アンバサダーに名称変更)の活動を始めました。サイエンス・アンバサダーの目的は、教育に役立つロールモデルとして振る舞うことです。
 
サイエンス・アンバサダーは東北大学に所属しており、女子大学院生で構成されています。彼女たちは次世代と年齢が近く、小学生や中学生、高校生と緊密なコミュニケーションを取ることができます。たとえば、コロナ禍に対面・オンラインでセミナーを開催し、私生活やSTEM分野での仕事について話す機会を設けました。
 
障壁という点では、両親や先生、友人など、さまざまな人が障壁になることもあります。多くの人は、女性に科学の分野で活躍できるチャンスがあることを知りません。両親は心配になり、娘に「工学部に入ったら、卒業後はどうするのか?どんな仕事に就けるのか?」と聞きます。STEMの学位を取得後に多くのキャリアチャンスがあることを知らないのです。日本ではあまり知られていないのです。
 
学生たちに女性科学者の姿を見せることは、科学分野で女性は活躍できるということは社会に伝えるためにとても需要です。
 
日本でも世界でも、女性と女児は依然として著しく過小評価されているのが現状です。今日、世界の STEM 分野で働く女性は 27% にすぎず、日本では わずか16% にとどまっています。同分野は依然として、男性優位なのです。
 

科学者には生まれつきの才能が必要でしょうか?それとも、必要な能力は努力で身に着けることはできますか?

良い質問ですね。両方だと思います: 
1.    観察眼
2.    論理的な思考能力
科学者には上記の能力が必要だと思っています。観察眼は生まれつきの能力かもしれません。一方論理的な思考能力は、訓練できるものであって自然に身に着けられるわけではありません。良い科学者になるには、論理的な思考能力を訓練して身に着ける必要があります。
 
1つずつ、少しずつ取り組んでいけば、観察眼も鍛えることができると思いますが、どちらかというと自然と身についているものです。
 
科学者として成功するには、両方のスキルをもっている必要がありますが、100%完璧である必要はありません。今日の科学の世界では、協力し合うことが非常に大切です。ですので、自分のスキルを補ってくれるような科学者と共同研究をすれば良いのです。

科学の世界では、チームワークがますます重要になってきています。1人で両方のスキルを完璧にできる必要はありません。
 

科学の面白さとは何でしょうか?

新しい発見をすることです。とてもワクワクすることであり、それはまるでドラッグのようなものかもしれません(もちろん実際に体験したわけではありません)。科学者は新しいものを発見することにそのような感覚、達成感に抱き、離れることができなくなってしまうのです。
 

学問を志したり、エンジニアを目指したりするモチベーションとなるものは何でしょうか?

それは人それぞれだと思います。人間の新しいものを発見したいという欲求に加え、科学者の最大のモチベーションのひとつは、社会に貢献するために何かをするということです。私の場合は、科学の仕事をすることや大学で教えること、大学院で学生を育てることがモチベーションです。
 
私は人類の進歩に直接貢献できることにとても満足しており、何か良いことをしているという実感があります。ですから、指導者や教授、メンターにとって重要なことは、未来の世代の科学者に自身の仕事が社会にとっていかに重要であるか示すことかもしれません。
 

中学生や高校生で、科学者になるとまでは考えていなくとも科学に興味をもち始めた学生へ、何かアドバイスはありますか?科学分野でキャリアを探求しようと考えた場合、まだ追いつくことはできますか?

はい、できると思います。
挑戦する分野やテーマはしっかり選ぶ必要があります。科学やSTEM分野には、さまざまな分野やテーマがあります。これまでよく研究されてきたようなテーマでも、非常に難しく、知識の蓄積が必要なものもあります。そのようなテーマが難しければ、斬新であまり研究されていない分野を選ぶことをおすすめします。
 
今、科学アカデミーは拡大し続けています。まるで、宇宙のビックバンのように急速に拡大しています。たとえば、人工知能(AI)のような新しい分野は取り組むべきことが多くあります。新たなアイデアや視点は飛躍的進歩につながります。
 

2023年、科学産業はどのように変化していくと思いますか?5年前とどう違うのでしょうか?

時代は変わり続けています。先ほど話したように、私自身は今、AIを使った解析に非常に関心があります。人間である私たちの脳には容量の限界があるからです。たとえば、人間の記憶力を2倍にすることはできません。しかし、コンピュータやAIを使えば、知識を2倍、3倍、無限にし、そのようなビックデータをもとに、今までとはまったく異なったアイデアを考えることができます。
 
科学的発見の方法も変わってきています。以前は文献を読んで仮説を立て、その仮説が正しかどうか実験して証明するというものでした。これは、何世紀にもわたる古典的な方法です。
 
しかし現在では、何世紀もの知識をすべて蓄積できるようになりました(ビックデータ)。AIはこのようなビックデータを分析し、非常に興味深い仮説を導き出すことができます。
 
私たち人間は、その仮説のうちどれがより信頼できるか、より興味深いかを議論し、選択する。そして、その仮説が正しいかどうか証明するために、検証を依頼する。人間が何を手がけるかにまつわる変化は、すぐ起きると私は考えています。
 
そういう意味で、とても興味深い時代だと思います。私は今、約60歳になりましたが、とても楽しみです。今後10年、20年で、私が生きている間に物事が変わっていく様子を見られるかもしれません。本当にワクワクする時代です。


 科学で成功するために必要なスキルトップ3は何だと思いますか?

ハードスキルに関して、トップ3は分野によって異なっていたものでした。現代で3つ挙げるとするならば、
  • プログラミング
21世紀はプログラミングスキルが中心になります。もう2つはすぐには答えられませんが、ITは非常に優先度が高いと言えます。
 
ソフトスキル: 
  • コミュニケーション能力
  • 文章力
  • 粘り強さ(忍耐力)
コミュニケーション能力
チームで研究を行うことが増え、チームワークや連携が不可欠になっているため、以前よりコミュニケーション能力が必要になってきています。

文章力 
書くこととは論理的な思考をすることであり、他者とのコミュニケーションの一部です。特に、科学の分野では正確な文章を書くことは重要なスキルです。小説を書いているわけではないため、正確に書く必要があります。

忍耐力 
現代ではあらゆるもののスピードが速く、人々はますます忍耐力がなくなってきています。大きな発見をするには、待つことを学ぶ必要があります。答えはいつも簡単にあるいはすぐに出るとは限りません。


科学分野を目指す女性や男性にアドバイスをお願いします

  • 1つ目は新しい分野に飛び込むこと 
  • 2つ目は良いロールモデルやメンターを見つけること
  • そして3つめは「Stay foolish(愚かであれ)」
これはスティーブ・ジョブズの言葉から引用したものです。AIは愚かではいられません。愚かであることは人間にしかできないのです。さまざまな人とコミュニケーションをとって多彩な経験をしていくことで、考え方や感じ方が変わり、世界を変えるユニークなアイデアを生み出すことができます。
 
 
大隅典子、DDS , PhD
東北大学副学長
東北大学附属図書館長
Director, Center for Neuroscience   
東北大学大学院医学系研究科教授

 
 
 
シェイク バロー
ヘイズ・ジャパン シニアマネージャー
Chair & Japan representative
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