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企業は生産「量」から「質」への転換を

企業は生産「量」から「質」への転換を

生産水準が金融危機前の水準を下回るまでに落ち込み、生産「量」に重点を置いた従来の評価法は限界に直面しています。成長を目指す企業は、新たな分野に力を入れていかなければならないのでしょうか?

現在、多くの企業が生産性の低迷に直面しており、これを取り上げた新たな記事が毎日のように紙面を賑わせています。これらが話題になるのは、相応の理由があります。コンサルティング・ファームのデロイト社が国際労働機関のデータを分析したところ、生産性の伸び率は2006年に3.9%を記録した後、2008年の金融危機後を経て急激に落ち込みました。2016年、世界の生産性成長率は1.8%に止まり、この調査を担当したデロイト・サービス社(インド、ベンガル州)のルミキ・マジュダー博士によると、この伸び率はそれ以降ほぼ横ばいで推移しています。

さらに、コンセントラ・アナリティクス社の委託により、2019年6月に英・米国で、1,000人超の従業員を持つ企業のリーダー400名を対象とした調査を実施したところ、英国の大企業のうち86%が今後の生産性改善に不安を抱えており、39%は自社の生産性を「強く懸念している」と答えていることが明らかになりました。
これは極めて深刻な結果です。マジューダ氏によると、経済成長には原動力となる要因が2つあり、そのうちの1つが生産性です(もう1つは労働人口の拡大です。)。人口の高齢化は、多数の雇用主には好機と捉えることができますが(詳細については、ヘイズ・ジャーナル「Issue 18 2019/20」号の10ページをご参照下さい。)、企業が生産性の向上を重視していることに変わりはありません。生産性の低迷が長期化すると、現在世界で認められている生産性の測定方法、つまり量を重視したやり方に疑問を持つ人も増加するでしょう。従来は多くの企業がオペレーション方法を変えないまま、より多くの成果を絞り出すことを求められました。しかし、現在は組織やマンパワーの点も含め、様々な要因を考慮すべきとの意見も一部に見られます。企業や政治家には原動力となる要因に広く注意を向け、生産性の改善をバランスよく進めるほか、これを向上させることが求められています。

新たに生まれた基準

世界各国で学習サービスを提供しているピアソン社の人事マネージャー、ケビン・リオン氏(ロンドン)によると、同社はこれまで1時間当たりの生産高を重視した管理を行っていました。しかし、これを廃止したところ生産性は改善し続けています。

同社は学習教材の出版社としてスタートしました。しかし市場が印刷物からデジタル出版へ、冊子の購入からオンラインでの閲覧へとシフトしたため、デジタル化を推進してきました。
ピアソン社は現在、サービス品質の向上を生産性改善の原動力とみなし、顧客重視の変革に力を入れています。

「自らが顧客に提供したサービスの質を振り返れば、迅速な対応や仕事の進め方も考えるようになり、企業文化を見直すきっかけとなります。生産性の低下を防ぐことにもつながるでしょう」とリヨン氏は語ります。
ピアソン社は、顧客サービスの向上を追求し、仕事のプロセスを見直して成果に結びつけてきました。結果的に、多くの業務をアウトソースし、生産性を改善してきました。ヘルプデスク業務の海外委託もその一つです。同社はこれまで、毎年30,000名の評価担当者を採用し、自社が実施する試験の評価をさせていましたが、この業務を海外にアウトソースしました。
リオン氏によると、海外委託開始後、評価担当者が担当するサービスの内容は一変しました。顧客対応部門のサポート力は著しく改善し、問合せ電話の90%がその場で解決されるようになりました。委託前の解決率は、これよりはるかに低い割合でした。
繁閑差の管理も向上しました。英国内の従業員数は減少しましたが、国内の従業員は、試験成績への問合せや成績管理のアドバイスを行う評価担当者の支援など、高度な業務に従事し、社内の生産性改善に貢献しています。委託対象となったヘルプデスク業務は、ピアソン社のコア・コンピタンスである顧客サービスでも秀でた結果を出しています。「私たちがここで議論している問題の鍵を握るのは、生産性です」とリヨン氏は語ります。「結論として行き着いたのが、現在行っている外部委託なのです。」

組織の再編

アウトソーシングは生産性向上にむけた組織再編策の一つですが、製薬企業大手のファイザー社は異なるアプローチを試みています。新CEOのアルバート・ブーラ氏は就任後、管理職に対し業務手順や組織構造、ガバナンスの簡素化を検討するよう支持しました。生産性の高い組織作りを目標に、権限委譲を進め、迅速な意思決定を実現するためです。
担当管理職はチームを立ち上げ、全従業員が使用できるオンライン・プラットフォームを開設しました。従業員が過去に手続きが複雑すぎて時間と労力を費やした経験はないか、クラウドを使ってプラットフォームに情報を集めました。この結果、生産性低下の最大の原因となっているのは、会議と電子メールであると判明しました。課題の解決を目指して有志によるチームが結成され、現実的で速やかに実行できる解決策の創出を支援しました。
「今回鍵となったのは、問題の評価と解決に従業員が関与したことです」と、ファイザー(ロシア)のHRビジネス・パートナーのユリア・ノボデラズキハ氏は指摘します。「関与することで、従業員一人ひとりの当事者意識が高まるのです。今回の変化により、成長余力も高まり、従業員は本当に大切なこと、つまりファイザーを必要としている患者様やお客様に価値を提供する時間を創り出すことができました。」

業務と職務の見直し

役割と責任の範囲を見直して、より高い価値の仕事に従事させることも、多くの企業が生産性向上に向けて採用しえいる施策の一つです。
ベイン・アンド・カンパニーが実施した調査によると、この手法は生産性の改善に大きく影響しています。特に優れた企業は、役割や職務の見直しを含め、優秀な人材をいかに管理するかによって、他社を25%上回る生産性をあげることができると明らかになっています。例えば、優秀な人材を特定して業務の進捗状況を追跡し、こうした人材を集めてチームを立ち上げ、極めて重要な業務に従事させます。また、このチームが共同で仕事を遂行するに当たり障害となるものを除去し、メンバーの自尊心をコントロールするのもその一つと言えるでしょう。

コンセントラ・アナリティクス社の調査では、従業員1人当たりの利益についてマクロ・ミクロ双方の視点から考察する企業は、生産性も高いという結果が出ました。また、同社の試算によると、英国の大企業がこうした視点に基づいて従業員の能力や性質等(人的資本)への見方を改善すれば、国内の生産性は0.5%、つまり104億ポンド分上昇する可能性があります。
同社CEOのルパート・モリソン氏は、「殆どの大企業が、従業員や従業員の仕事について十分に理解していません。自社の人材について詳しく知れば、大きな可能性を見出す事ができるかもしれません」と語ります。
「未来のために投資をしている企業は、従業員や彼らの仕事について理解を深めてください。事業計画の実行過程で、適切な人材を適切なタイミングで、適切な職場に配置すれば生産性は改善するでしょう。」
「週末のビールやビリヤード台で慰労するよりも、従業員個人が自分の役割を明確に理解し、必要な能力を備えることができるよう取り計らい、モチベーションを効果的に刺激することが大切です。」
米国の経営学の泰斗、マルクス・バッキンガム氏とドナルド・クリントン氏は、著書「Now, Discover Your Strength」の中で、200万人を対象にしたギャロップ社の調査結果を分析しています。両氏はその結果に基づき、企業は従業員の弱点を修正するよりも、長所に注目して適切な業務に就かせた方が繁栄できる可能性が高い、と述べています。これにより離職率も低下し、モチベーションと業績は向上します。
リオン氏によると、ピアソン社の従業員は、業務委託のお陰でより価値の高い仕事ができるようになり、モチベーションが高まるというメリットも享受しました。業務プロセスを見直し、従業員の目的を明確に設定し、パフォーマンス管理の制度を導入したことが実を結んだのです。つまり、従業員が自分に求められていることを理解して努力したため、やりがいと仕事への関心が高まった結果と言えるでしょう。
リオン氏は、企業にとって大切なのは、パフォーマンス管理と人材育成をバランスよく行うこと、つまり教育と人材開発、ダイバーシティ&インクルージョン、ウェルビーング(従業員の健康な生活)とメンタリングといった人材分野に投資すること、と述べています。
生産性向上に向けた取り組みは、時として従業員に雇用不安を与えることもあります。しかしこうした投資が適切に機能すれば、従業員が不安を感じる可能性も低減するでしょう。

従業員のニーズを探る

このほか、従業員の個人的なニーズに目を向けることも生産性向上に寄与します。
2to3days社は、フレキシブルな働き方を通して職場における女性の平等促進を目指すスタートアップ企業であり、先進的な企業と、自らのキャリアを柔軟に追求したい優秀な女性従業員をつなぐサービスを提供しています。4年前に設立された2to3days社のコミュニティに参加する求職者は30,000人を超えています。
同社の創業者兼CEO、ジュリエット・ターンブル氏は、「就業時間の変更やリモートワークのための技術の提供など、柔軟に働きたい労働者への対応に前向きな企業は、従業員の満足度、生産性とロイヤリティも高い傾向が見られます」と語ります。結果的に採用コストが減少し、生産性改善活動に使う費用の額にも影響が出ます。

従業員個人のニーズ充足については、必ずしも企業が単独で責任を負う必要はありません。英国南部の海岸地域に位置するドーセット地区は、近年生産性低下という問題に直面しています。生産性向上を妨げている大きな原因の一つが人口の高齢化です。

同地区の官民連携パートナーシップである「Dorset Local Enterprise Partnership」(地域産業パートナーシップ:LEP)は、生産性向上の支援に取り組む地域のために産業戦略の調整を行っています。現在は、雇用主など現地のステークホルダーと協力し、戦略の策定を進めています。

LEPは、この業務の一環として、ドーセット地区の「生産性」評価方法も検証する方針です。生産性の評価については、調査対象者の多くが課題として提言しており、多くの人々は同地区の自然・文化的な資産価値がどのように評価されるのかに関心を寄せています。
LEPディレクター、ローナ・カーヴァー氏は「生産性を中心に経済対策を検討する方法が後退したわけではありません。生産性を重視する考え方は依然として存在します。現在の課題は、健康・ウェルビーイング(従業員の健康な生活)・社会的価値観・文化といった昨今重要視されている要素と生産性をどのように調和させていくか、です。
このように幅広い要因をどのように評価していくか。これは非常に難しい問題です。これについては、現在検討を進めている段階です。」

技術が変える未来

マッキンゼー・グローバル・インスティチュートは2017年度に発行した「A future that work: automation, employment and productivity(仮題:自動化、雇用、生産性が機能する未来とは)」の中で、労働人口縮小の緩和策としてオートメーション(自動化)の推進を挙げています。同社のシナリオでは、自動化推進により年間0.8%から1.4%の生産性向上を見込むことが出来ます。
ピアソン社のリオン氏は「自動化によって単純な作業プロセスが省略され、誤作動なく品質を向上させることができます」と語ります。同氏は自動化が生産性向上に寄与する例として、ある業務委託先が顧客支援として高機能のチャットボットを導入した例を挙げています。一方で同氏は、自動化の対象は、厳密なプロセスを経た上で決定する必要がある、と訴えます。自動化に踏み切る前に、事業活動を見直し、可能であればその活動を再設計することも必要です。無駄な業務を自動化したところ、さらに無駄な作業が発生する可能性もあります。このため「正しく対処することが大切です」と、リオン氏は主張します。

同氏は「テクノロジーは人間を無駄な業務から解放し、技術が得意とする作業を請け負うことで労働環境を変えることができます。従業員は、技術が対応できない戦略的かつ人間の感情を扱う仕事に集中することが出来るようになるのです」と述べ、「人間と技術が手を取り合い相乗効果を発揮すれば、未来は進化していくでしょう」と締め括りました。
成長企業への転換を進めているファイザーにとって、自動化の推進は欠かせない取り組みです。「ファイザー・デジタル・プロジェクト」は、社内運営効率化に必要な技術を特定するために立ち上げられました。同社はプロジェクトの一環として、「Workday HRMS」システムを導入し、人事業務の自動化を進めています。
自動化の推進に従業員が不安を感じたとき、企業はどのように対処することができるのでしょうか。「従業員に新しい技術に馴染む時間を与え、技術がもたらすアドバンテージを理解してもらうのです」とノボデラズキハ氏は言います。「利点を理解しさえすれば、効果的に使うことが出来るでしょう。技術によるソリューションがシンプルで、かつ直感的に理解できるものであればあるほど、導入や活用の効果は増大します。」
自動化、アウトソーシング、業務や職務の見直し、従業員のニーズに応じた職場環境の変更。検討対象に関らず、雇用主は、生産性向上にむけて、様々な要因を考慮し従来採用していた方法を柔軟に変更する必要があります。
明確なのは、生産性に大きな影響を及ぼすのは従業員であり、改善活動の実施には従業員の合意が大切であるということです。ここで、ノボデラズキハ氏の貴重な助言をご紹介します。「何らかの変更を行うときは、可能な限り多くの情報を提供し、プラスの側面に集中し、従業員を尊重し、変化の過程で従業員を支援することが重要なのです。」 

生産性を理解し、評価するために

「生産性」という言葉を頻繁に目にする時代になりました。しかし私たちは、「生産性」が真に意味するもの、「生産性」をいかに評価すべきかについて明確に理解しているのでしょうか?
分かりやすく言えば、「生産性」とは、一定レベルの生産力を生み出すために、経済活動において労働力や資本といった生産要素をいかに効率的に活用しているかを測定するものです。
最も一般的な指標は、粗付加価値(Gross Value Added: GVA)で、企業や自治体による経済への貢献度を測定するものです。
GVAは、ある国で生産されたモノとサービスを金銭的価値で表したものです。モノとサービスからその生産に直接使用された原材料などを控除して計算します。
GVAを算出すれば、製品やサービス、それぞれの部門が企業の最終利益にどのくらいの価値をもたらしているかを理解することができます。

生産性を高める文化の醸成を

英国ヴァージン・グループの創業者、リチャード・ブランソン氏は「従業員を大切にすれば、従業員の満足度は向上します。満足度の高い従業員は、仕事に誇りを持つようになり、優れた顧客サービスを提供するようになります。これがビジネスを成功に導くのです」と語ります。

フレキシブルな働き方をプロモートする専門人材企業である2to3days社の創業者兼CEO、ジュリエット・ターンブル氏は、「従業員の満足度改善に必要なのは、経営層のコミットメントと開かれたコミュニケーションを特徴とする文化の醸成です。従業員はこうした環境で、創造性を発揮し率先して事業に携わり、革新性を刺激されるのです」と言います。

協力体制を作り上げることも必要です。従業員が協力して生産性向上に向けたソリューションを作り上げることができれば、さらに良いでしょう。最終的には従業員を信頼して仕事を任せ、従業員に適したツールや技術を与えることです。

信頼されなければ、従業員も率先して仕事をすることができず、生産性を向上させることは出来ません。
信頼は、柔軟な働き方を生産性につなげるための重要な要素です。ターンブル氏によると、採用担当者はこのことに気付いてはいるものの、現場管理職の理解を得ることに苦心する傾向が見られます。これらの現場管理職は、柔軟な働き方の重要性を理解していないか、経営層の支援が得られていないと感じているかのいずれかに該当します。「いずれにしろ生産性改善に不可欠な要素として、柔軟な働き方の重要性が理解されていないということになります」とターンブル氏は述べています。

同氏は、「経営層は柔軟なチームの管理に関するトレーニングや、オフィス外での就業を可能にするツール・技術を提供するなど、現場管理職の支援を強化することが大切」と、語ります。

氏はまた、「こうした視点は、ビジネスに不可欠」と続けます。ミレニアル世代は、「燃え尽き症候群」となった両親の世代を見て、両親とは異なる働き方を希望するようになりました。 この世代は、生まれたときからデジタル機器に囲まれ、柔軟な働き方を実現する技術についても知識があります。

「私たちは今、非常に変化に富んだ時代を迎えています。勝ち残りたい企業は、この変化を受け入れなければなりません」とターンブル氏は締めくくりました。

なぜダイバーシティは生産性を向上させるのか

「ダイバーシティとは、全従業員が生産的に活動できる、公平な競争環境を創り出すものです」と、PurpleSpace社の創立者、ケイト・ナッシュ氏は語ります。同社は、障害を持つ従業員の社内ネットワークを運営する人々にサービスを提供する専門企業です。
「例えば、手に間接リウマチの症状を持つ従業員のために、イージーグリップペンを提供しても良いでしょう。1.74ポンドのペン代で、非常に優秀な人材を定着させることができるだけでなく、この従業員の仕事の効率も向上するのです。」

2015年の創業以来、同社はカナダ、米国、オーストラリアなどの国々で500名の加入者を持つグローバル企業に成長しました。

ナッシュ氏によると、自社の採用候補者に障害者を含めたいと考える雇用主は少なくありません。その一方で、費用と負担がかかるとの先入観に囚われているケースも数多く見られます。実際、職場の改修費用など必要経費は、障害者1名当たり400ポンドから700ポンドで、それほど大きな負担とは言えません。

「雇用主は、管理職や採用担当者を教育して、職場改修など可能な対策が幅広く存在すると理解させる必要があります。また、ステアリング・コミッティーを立ち上げ、障害を持つ従業員のニーズを職場全体で検討することも求められます」と、ナッシュ氏は指摘します。障害を持つ人々のネットワークを支援に活用するのも良いでしょう。
障害を持つ従業員は、問題解決力や時間管理、ロイヤリティの高さなど優れた資質を持っています。雇用主は、こうした従業員に投資を行うことで、彼らの資質を発揮させ、生産性の改善に結びつけることが出来るのです。

ナッシュ氏は「障害を持つ人々は、職場の改修など、自分たちの生活には物理的な調整や制度等の変更が必要であると理解するでしょう。それは、周囲の同僚に従来のやり方を少しだけ変更してもらえば済むことかもしれません。いずれにせよ、雇用主はこうした施策によって、ロイヤリティと尊敬を高めることが出来るのです」と語りました。