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「人生100年時代」-高齢化はチャンスの拡大なのか

「人生100年時代」-高齢化はチャンスの拡大なのか

多くの国々が間もなく労働力人口の高齢化時代を迎えようとしています。この趨勢を課題として捉える企業が大半ですが、今企業に求められているのは、この高齢化現象を負担としてではなく機会として捉えることです。

日本は現在、60歳以上の世代が人口の30%超を占める世界唯一の国ですが、2050年までには62の国々で老齢人口の割合が同率に達するものと予想されています。
米国政府の調査によると、同国では2035年までに歴史上初めて定年人口が18歳以下の人口を上回る人口構成となります。世界保健機関(WHO)は、2050年までには世界全体で60歳以上人口が倍増して20億人を突破し、5歳未満の子どもの数を上回ると予測しています。しかし、国際長寿センター(ILC)の調査では、ヨーロッパ域内の60歳から64歳までの就業率は、わずか3分の1に止まるとの結果が明らかになっています。
従業員の高齢化が多くの労働階層で進展する一方、これら高齢労働者の大部分は、自分の潜在能力を最大限に活用するための支援を雇用主から得られていないと感じています。

アビバ社の調査によると、英国の高齢労働者の44%(正規雇用とパートタイムの双方を含みます。)は、自らのキャリア展望について雇用主の支援を受けていないと回答しています。
では、高齢者を効果的に支援するために、また、高齢者が仕事でベストを尽くすために企業は何ができるのでしょう。

高齢労働者への偏見の払拭

こうしたジェネレーション・ギャップに対処するために真っ先に求められるのは、年齢に対する偏見に向き合い、克服することです。こうした偏見が顕著なのが人材のつなぎとめです。雇用主の多くは高齢者の継続雇用を検討しながらも、若い人材の定着に力を入れています。

米国カリフォルニア州のミルケン・インスティチュートの関連機関であるCenter for the Future of Agingの会長ポール・アービング氏によると、一般的に高齢労働者は若い労働者の成長を阻害する可能性があると考えられていますが、これを裏付ける証拠は殆ど存在しません。「経済とチャンスは流動的に動きます。高齢労働者と若い労働者は、能力も職場にもたらす考え方も異なります。様々な世代で構成されたチームのほうが、同じ世代が集まったチームよりも、優れた業績を上げるとの結果も見らます」と、同氏は指摘します。

アービング氏のコメントを裏付ける統計があります。ボストン・コンサルティング・グループが8カ国1,700社を対象に実施した調査では、(移住、産業、キャリアパス、性別、教育、年齢の観点から)多様性に富んだ企業は、それ以外の企業と比較した場合、革新で生まれる収入で19%、税引き前利益で9%上回る結果を出しました。

また、高齢の労働者は人工知能(AI)を脅威と感じる傾向が見られますが、指導力や判断力、経験などAIとは異なるスキルに恵まれています。また、若い労働者は新鮮な考え方や創造性、技術力に優れており、高齢労働者を補うこともできます。アービング氏は、今後仕事の世界がAI、ロボット工学、自動運転など新しい技術によって劇的な変化を遂げることを踏まえ、全世代の労働者の不安を取り除くことが不可欠であると語ります。
「将来の仕事に対して不安を感じるのは、若者も高齢者も同じです。年齢を問わず全ての労働者のニーズと希望に対応できるソリューションが必要なのです。」

新たな一歩のとき

現在の高齢労働者の多くが「サンドイッチ世代」に該当します。サンドイッチ世代とは、子供と介護が必要な高齢の両親の双方に金銭的な責任を負う世代を言います。自動車レンタル・サービスを提供しているエンタープライズ・ホールディングス社のヨーロッパ地区人事ディレクター、ドナ・ミラー氏は、こうした責任感が就業の長期化や再雇用の必要性につながっているのではないか、と指摘します。「決まった年齢で退職できない重大な理由があるのです。時にそれは経済的な理由であったりもします」と、同氏は語ります。「例えば、資金計画を立てていない、介護責任がある、などです。または、資金計画が期待通りに実行できていないといった理由も考えられます。」

「しかし企業にとって、これは追い風かもしれません」とミラー氏は続けます。高齢労働者が担う職務は、前職に比べると「若手」向けの仕事になるかもしれませんが、それでも若い労働者にはない深く幅広い知識を活用することができるのです。「高齢労働者はフレキシブルな働き方を求める傾向が強く、正規の雇用であればなお理想的であると考えています。」

雇用主は、高齢の従業員をどのように支援すべきなのでしょうか。アービング氏は「迷ったときは彼ら自身に聞いてみれば良いのです」と答えます。「経験豊かな従業員に、様々な課題や可能性についてアドバイスや助言を求めるのです。彼らの話に耳を傾けて下さい。」「年齢に配慮したアプローチを検討して下さい。例えばフレックスタイム制、ジョブ・シェアリング、パートタイム制度、段階的退職制度、従業員の年齢層の変化に合わせた職場設計などが挙げられます。」
また、ミラー氏は、年齢を考慮に入れたダイバーシティ&インクルージョン政策も必要、と指摘します。「多様な年齢の従業員が働いていることは、企業の強みです。人口の高齢化は避けられません。つまり賢明な企業は、経験豊かな人材をつなぎとめる新たな方法を作り上げ、高齢従業員と若い従業員を公平に扱い、全ての年齢層の従業員のロイヤリティと生産性を最大まで引き出せる政策と実行力を持つ必要があるのです。」

高齢労働者の経験から学ぶ

世界的なメンタリング・ネットワークを提供しているPushFar社の創業者兼CEO、エド・ジョンソン氏は、「メンタリングとは、企業にとって高齢化する従業員の知識やスキル、経験を効果的に活用するための方法のひとつです」と述べています。「定年間近の従業員や退職直後の人材は、非常に優れたメンターになる可能性が高いことを、私たちは経験から知っています」と同氏は言います。
また、メンターの年齢に関わらず異なる世代間でメンタリング活動を行うと、従業員の対話や自信、企業としての成功に大きく影響するケースもあることも指摘しています。

その一方で、「高齢労働者の雇用については、産業間で大きなばらつきが見られます」と、人事・人材育成の専門機関であるCIPDの労働市場エコノミスト、ジョン・ボーイズ氏は述べています。
「例えば、ホスピタリティ産業の担い手は主に若年層ですが、ヘルスケアや社会福祉産業では高齢労働者が大きな比率を占めています」と、同氏は説明します。
また、雇用主の中には、就業期間が長期化し定年までの期間が後押しされれば、若者の雇用機会が奪われる可能性があると誤解している者もおり、この傾向は特定の産業で一層顕著に見られるとボーイズ氏は述べています。「ひとつの経済圏に、一定数の仕事が存在するわけではありません。働いている人々が増えて、より多くの需要を生み出し経済成長を活発化させる。これがさらに雇用を生み出していくのです。」

人口高齢化の世界的な動向

国際長寿センターのシニア・リサーチ・フェロー、ブライアン・ビーチ博士によると、人口高齢化の管理を効果的に行い、他国よりも優れた実績を出している国もあります。「直面している現実は、国ごとに大きく異なります。欧米諸国では、退職制度が伝統的に残っており確立された方針も存在します。また、1970年代後半から80年代には、早期退職制度も奨励されました。公的年金制度のための支出を、所得税や雇用税による税収で支える国家経済にとって、人口の老齢化は課題のひとつなのです」と博士は語ります。「欧米諸国以外では、セミリリタイア制や部分退職制度を採用する傾向が強くなっています。これは、公的年金制度の整備が比較的遅れているため、又は退職後の収入が不安定なためでもあります。」

しかしヨーロッパでも、高齢労働者を支援し、彼らの労働生活を充実化しようとする取り組みが始まっています。例えば、ドイツ鉄道社は、高齢の従業員の業務を、体力を使うものから接客業などにシフトしました。ビーチ氏によると、この取り組みは、一般の人々にとって高齢の従業員の方が支援や助言を求めやすいとの結果に触発されたものです。「フィンランドは、年齢と労働能力について世界でも先進的な考え方を持つ国のひとつです」と同氏は語ります。

実際にフィンランドは、1996年から2002年にかけて「高齢労働者のための全国プログラム(Finnish National Programme on Aging Workers: FINPAW)」を展開し、高齢労働者に長期的な就業を促す一方で、こうした労働者が技術の進歩についていけるように訓練やスキルアップを図っています。

世代を問わず平等な機会を与える

法律事務所esphrのシニア・ソリシターであるアーウェン・マキン弁護士は、「退職年齢を視野に入れると、雇用主が高齢労働者の雇用に慎重になるのも頷けます」と語ります。「企業は、従業員に退職を要求したり、年齢で差別したり、合理的な解雇予告をせずに退職に誘導していると思われる行動をしてはなりません」と同弁護士は語ります。

マキン弁護士によると、65歳を超えても職場への適応力が高く有能な人材もいますが、年齢により能力が自然に低下するケースも存在します。「こうしたケースでは、状況が複雑です。配慮しながら慎重に対処しなければなりません。長年にわたり特定の職務で申し分のない実績を上げていた従業員については、年齢が高くなったという理由で差別することはできません」とマキン弁護士は指摘します。「しかし問題が発生した場合には、公正な方法で対処しても構いません。」

この問題に対処する最善の方法として、マキン弁護士が奨励しているのが、多様性を受け入れ、率直なコミュニケーションが交わされ、お互いを尊重する文化を醸成することです。「高齢になったという理由で従業員への待遇を変えれば、こうした労働者との関係も途切れ、企業文化を毀損する可能性もあります」と、同弁護士は語ります。
人事部門のトップは、世代間の違いや今後劇的に変化する人口構成などを視野に入れ、高齢労働者の問題を優先的に検討するべきでしょう。

多様な世代の労働力を受け入れることは、企業にとってもメリットがあります。高齢の人材層が加速度的に拡大している昨今、雇用主は多様な年齢の従業員を積極的に受け入れることで、以前は注目されることがなかった高齢人材層にチャンスを与えることになります。
人事関連のコンサルティングを行うHR Lounge社のCEO、アンジェラ・オコネル氏は、「高齢労働者が求めているものは、若い労働者が求めているものと同じです。これを理解することが、最も大切なこと」と語ります。「質の高い仕事をして同僚と良好な関係を築くこと、自分自身の価値観につながる有意義な仕事、自分の力を発揮する能力―これらは、年齢に関わらず私たち全てが望んでいることなのです。」

数字で見る高齢化の進捗

  • WHOの集計によると、2015年から2050年の間に、世界で60歳を超える人口は12%から22%に上昇する見込みです。
  • バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ社の推計では、60歳を超える人口の消費力は、2020年までに世界規模で年間15兆ドルに達するとされています。
  • 日本政府の発表では、日本は60歳超の人口が3分の1、65歳超の人口が26%以上、75歳超が12.5%を占める「超高齢化社会」に分類されています。
  • EUの総人口は、2016年の5億1,100万人から2070年には5億2,000万人に増加すると予測されています(出典「2018 Aging Report」)。
  • 2016年から2070年の間に、EU全域の高齢化による費用(年金、ヘルスケア、長期療養、教育・失業保険への公的支出)は、1.7%増加し26.7%に達する見込みです(出典「2018 Ageing Report」)。

DHLが変えた従業員との対話

ドイツポストDHL(DPDHL)には4つの事業部門があり、その一つに位置づけられているのがDHLサプライチェーン社(本社:ドイツ、ボン市)です。DPDHLは、2018年610億ユーロの売上高を記録し、DHLサプライチェーン社の従業員数は、世界で15万人を超えました。同社のサプライチェーン部門は、様々な産業界のお客様のためにコントラクト・ロジスティクスサービスを提供しています。
「労働力の高齢化では、ネガティブな面が頻繁にクローズアップされます。生産性の低下、人件費の高騰、変化や新しい技術に対応できない、モチベーションが低い、など。しかし、これを裏付けるデータは存在しません」と言い切るのは、英国・アイルランドで人事部門のシニア・バイス・プレジデントを勤めるリンゼー・ブリッジ氏です。 「『労働力不足』、『人材不足』、『スキル不足』といった言葉が頻繁に聞かれますが、高齢労働者がビジネスにもたらす経験と知識を活用するためにも、対話が必要なのです」。
DHLでは、高齢労働者支援に向けて、様々な施策を導入しています。「パートタイム制、季節労働制、段階的退職制度(phased retirements)、ジョブシェア、時短制度などにより柔軟な働き方にも対応しています」とブリッジ氏は語ります。「キャリア開発を持続的に実施するために、全年齢層を対象としたロールモデルを展開し、各キャリアフェーズに合わせた新しいキャリアパスと職務を創設していきます。」
同社は、採用マーケティング活動で、「エイジ・ポジティブ(年齢を肯定的に捉える)」ロールモデルを提示、これに対応するポジションも複数用意しています。
「柔軟な働き方を求めている求職者が相談しやすいよう、求人広告には柔軟な対応が可能な職種を明確に記載しています」と、ブリッジ氏は説明します。「当社では、労働時間やスケジュール、就業場所などについて調整可能な範囲を広げ、従業員のニーズに対応するよう心がけています。」
また、同社は退役軍人を対象に再エントリー制度も実施しています。退役軍人の多くは、年齢が若干高めです。

ブリッジ氏は、「私たちは、Career Transition Partnershipプログラムと協力して、軍隊を退役予定の人々が、新しいキャリアに転身できるよう取り組んでいます」と語ります。

また、若い労働者が就業機会を活かせるよう、新たな人材プログラムを運営し、ロジスティクス業界へ初めて転身を図る人材に力を入れていきます。「私たちは、卒業生を直接ターゲットとして、競争力の高い『未来のリーダー』のための学卒プログラムと実習制度も提供しています」。
事実、2019年、DHLが受け入れた卒業生と実習生の数は、過去最高となりました。新たにこの制度に参加した105名には、9月に卒業を控えた学生も含まれています。
ブリッジ氏は、労働環境の変化の理解に努力を惜しまない企業は繁栄する、と考えています。「長い目で見れば、職業人生の長期化に応じて労働戦略や政策、管理方法を立案・設計・実行する企業は、成果を手にすることが出来、後手に回った企業は、人材不足やスキル不足に悩まされることになるでしょう。」

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