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インサイドストーリー:RPO採用アウトソーシング市場の現状(2019年)

インサイドストーリー:RPO採用アウトソーシング市場の現状(2019年)

現在の日本の労働市場は、世界の中でも最も厳しい市場の1つであると言われています。2040年には日本の世帯主の4分の1が75歳以上の高齢者になると推定され、急速な高齢化が国内の労働力に悪影響を及ぼしています。慢性的な人手不足に加え、高齢者が定年で労働市場を去ることで、事態はますます深刻化しています。失業率が26年ぶりの低水準となる中、企業は厳しい人材獲得競争に直面しています。政府も移民規制を緩和するなど、より将来を見据えた政策の検討に入っているものの、バイリンガル人材の不足や、消極的な求職者が大半を占める転職市場など、事態の改善にはまだ長く険しい道のりが予想されます。

こうした要因に加えて、採用活動のコストが増大していることもあり、複雑で独特な日本市場のニーズに応えるオプションとして、採用アウトソーシング(RPO)の人気が次第に高まっています。RPOは企業が正社員の採用プロセスに関わる全てまたは一部の業務を委託できるサービスで、外部の人材紹介派遣会社の管理を信頼できるリクルートメントパートナーのスタッフに任せることができます。すでに米国や英国、オーストラリアではこうしたソリューションが主流となっているものの、日本ではまだ市場の理解が不足しており、初期段階に留まっています。しかし採用にまつわるコストや時間を大幅に削減したいと考える企業や、採用部門の効率化を図りたい企業にとっては、アウトソーシングが生産性向上のカギを握る可能性もあります。

市場概況:現段階では未成熟だが、将来的な成長が期待されるRPO市場

ヘイズ・ジャパンのビジネスディレクター、ブルーノ・マルシャン(Bruno Marchand)は、こうした状況について、次のように述べています。「日本の採用事情はほとんどの企業が手に負えないほど、極めて厳しい状況です。一因は大幅な人材不足にあり、老年人口の拡大に対して生産年齢人口が少なく、その割合は年々低下しています。現在、東京の有効求人倍率は2倍を超えています。従って、求職者には多くの選択肢があります。」

日本では英語が話せる人材が不足していることも大きな問題になっています。調査会社のエベレストグループの報告書では、日本語と英語の両方に堪能なバイリンガル人材の需要が確実に高まっていることを示しています。「国内の労働者のうち英語が話せるのは10%以下と推定され、高い需要があるにもかかわらず、国内では英語を話せる人材の供給不足に陥っています。日本企業が外国人の採用に積極的ではないことを考えると、日本人以外のバイリンガル人材についても、ごく少数の人材に限られてしまいます」とマルシャンは述べています。

日本の企業が直面するもう1つの問題が、特定の仕事の欠員が埋まるまでに時間がかかるという点です。この点について、マルシャンは次のように説明しています。「求人から採用まで、平均すると90~110日もかかっています。採用された求職者の70%は、人材紹介会社を通して紹介された人材で、結果として社内の採用担当は今や、そうした人材紹介会社との調整役を果たすことが業務の中心を占めるようになっています。」こうした人材紹介会社に依存した採用のサイクルもまた、コストの大幅な増大につながっています。

RPOはこうしたコストを大幅に削減すると同時に、それぞれの企業のニーズに合わせてカスタマイズしたソリューションを用いて人材を探索することによって、採用までの期間も大幅に短縮できます。前述のエベレストグループは、RPOが日本ではまだ期待されるほど市場には浸透していないものの、日本でも内外のRPO企業が成長していくにつれて市場が拡大していくと予測しています。現在、日本でRPOサービスが最も採用されている業界は、ハイテク業界とテレコム業界です。

RPOの成功にとって最も重要な要素はビジネス量と文化的関連性

RPOはどのような業界にとっても有効なソリューションになり得るものの、これまでのところ日本では、ほとんどがバイリンガルのマネジメント職といったホワイトカラー職を対象としており、サービスを活用しているのは主に金融サービス、IT、電気通信、テクノロジー、自動車といった業界に限られています。「RPOのサービスは、最低でも年間50人程度の大量の求人を行う必要のある企業に最も適しており、そうした企業にとって大きな価値をもたらします。RPOを活用することで、必要な人材を確保するために必要な担当者や時間などがRPOパートナーによって適切に対処され、負担が軽減につながるでしょう。

結果的に、RPOのサービスは規模の大きな企業や、スタートアップ企業、新規オフィスの開設など、規模の拡大や事業の成長を図る企業に最も適していると言えます。ヘイズ・タレント・ソリューションの過去の例を挙げて、マルシャンは次のように述べています。「昨年、ヘイズは日本での事業を急速に拡大しようとしているグローバル企業への協力を開始しました。ヘイズのRPOソリューションを導入したことで、私たちは人材紹介会社を通さずに、欠員の80%を埋めることができました。80%というのはクライアント側から与えられた重要な指標の1つです。そこで私たちのサービスに満足していただいたことで、最終的にはヘイズのソリューションをグローバルに展開することになりました。」

この成功は、社員の推薦や紹介によるリファラル採用を推進したことと、「Find and Engage」の手法を採用して、消極的な求職者の多い転職市場の問題を克服したことによって達成されたものです。「日本の求職者は他の国の求職者に比べて受け身でいることが多いため、求人広告を出しても他の国のような効果は期待できません。ほとんどの人は求人広告に応募することはなく、LinkedInのようなプラットフォームもそれほど積極的に利用してはいません。こうした状況を鑑みて、ヘイズではこのような受け身の求職者にも働きかけられるよう、InstagramやFacebook、 Twitterなど別のソーシャルメディアを活用するなど、より創造的に戦略を構築しています。RPOパートナーを選択する際には、画期的なチャネルを活用して、転職活動を積極的に行っているかどうかに関わらず、最適な人材を探索できる能力を持っていることが、非常に重要になります」とマルシャンは述べています。

東京にあるヘイズ・タレント・ソリューションのソーシングセンターは、現時点での需要に加えて将来の必要性までも見据えて人材プールの構築を専門に行う柔軟性の高いチームで構成されており、日本のような市場にとっては、非常に重要な機能を果たしています。マルシャンは次のように述べています。「通常の組織では、社内にある既存の採用チームは、人材の募集や採用、もしくは外部エージェンシーとのやりとり、広告の出稿、求人広告のチェックなど、業務は多忙を極め、実際に人材の発掘に費やす時間も人手もない状況に陥っています。ヘイズのソーシングセンターは人材紹介会社を通す代わりに、担当チームが直接、人材のリクルーティングが行えるよう支援します。ソーシングセンターがうまく機能するには、言語や文化的理解、地域との結びつきなども重要な役割を果たします。多くのRPOはフィリピンやマレーシアにソーシングセンターを置いていますが、私たちの経験上、日本語を話せる強力なバイリンガルチームを、国内の人材に直接関わることのできる場所に配置することは、非常に大きな利点になります。」

将来有望な市場だが、PROを認知させる必要性も

エベレストグループの報告書によると、日本のRPO市場は未だ成熟には至っていないものの、リージョナル、海外の両方の企業から相当量の動きが見られており、中規模企業がこうしたサービスを導入するケースも増加しています。IT業界やテレコム業界に加え、新たに小売や運輸・交通、ユーティリティ、鉱業、建設といった業界にも市場が生まれており、近い将来、大量の人材需要が見込まれるこうした業界にとってRPOは最適なソリューションになると考えられます。

しかし、RPOが最大限に威力を発揮できるようになるには、まだ整備しなければならない課題が数多くあるとマルシャンは指摘しています。「全面的な外部委託の人気が高まり始めている一方で、最大の課題はRPOソリューションがもたらすことのできる価値が、市場で十分に理解されていないことです。RPOは完全にオーダーメードのソリューションとして、採用プロセス全体や採用戦略をすべて、肩代わりすることができます。つまり、組織は担当者を任命したり、プロジェクトを進行させるために必要なさまざまな作業について、一切、心配する必要はなくなるわけです。適切なRPOパートナーには、クライアントごとに、重要な戦略人材の獲得に際して直面する問題について対処できるRPOソリューションを立案し、実行する能力があります。」

RPOとスタッフの増強の違いをしっかりと理解している企業もある一方で、マルシャンは依然としてこの2つを混同したままの企業があると考えており、次のように述べています。「全面的なRPOソリューションと単純なスタッフ増強ソリューションとの違いを、クライアント企業に理解してもらえないことがあります。スタッフ増強ソリューションとは基本的に人や”部隊“を提供して既存の採用担当部門を手助けするソリューションです。RPOはそれとは異なり、問題の特定から始まって適切なソリューションの導入、成果に至るまでの成功の度合いの測定まで、長期にわたるジャーニーをクライアント企業に提供するものです。」

市場が次第に成熟し、RPOの活用範囲が拡大し続ける中、当面は日本の労働市場におけるPROの採用は限定的なものであり続ける可能性がありますが、将来有望な市場であることに変わりはありません。

本レポートに関する詳しい情報や、求職活動、採用ニーズについてのご相談は、ヘイズ・ジャパン ビジネスディレクター、ブルーノ・マルシャン(Bruno.Marchand@hays.co.jp)までご連絡ください。