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インサイドストーリー:日本金融テクノロジー業界の現状(2019年)

インサイドストーリー:日本金融テクノロジー業界の現状(2019年)

2018年は日本の経済成長を楽観視するだけの理由がありました。前年の強力な数字に続いて、2018年の第2四半期は、GDPが事前に予想されていた2.6%を上回って3%上昇し、この2年以上で最大の伸びとなりました。

この勢いに拍車をかけているのは、ベンチャー企業の急激な増加と民間企業の設備投資の増加です。市場の楽観傾向が続いていることで、多くの企業が将来に期待しています。

このGDPの伸びにより安定した基盤を築いている金融サービス(FS)業界の企業は、この上昇傾向を十分に活用することに強い意欲を示しており、ITソリューションの改善とアップグレードを可能にするテクノロジーに期待を寄せています。企業は安定性と性能の両面でシステムを開発、強化するための投資を行っているため、投資銀行フロントオフィスでの開発、アプリケーションサポート、プロダクションサポート業務における人材を求めています。

日本の金融サービス機関は1千兆円の銀行業界の規制改正の基盤作りを行っています。すべてのFS企業が同じルールに従う法的枠組みが変更される可能性があり、テクノロジー新規事業などの新興企業が既存の金融機関と直接競争できるようになりますが、これはFS企業の運営方法だけでなく、ITソリューションの導入方法にまでも影響を与えることになります。

国際管理機関や各地域の統一を目指す本社から課せられる変更に加え、企業はこうした新しい変更に対処するため、IT監査員や情報セキュリティ統括責任者、マネージャーなど、ITガバナンス分野の金融テクノロジースペシャリストを求めています。

市場の活性化に伴い、広範な業務を再び国内で対応していこうとする動きも出てきています。これは製造業で最も顕著でしたが、金融テクノロジー分野でも広がっています。企業は何十年も費やしてアジアなどに事業範囲を広げ、金融テクノロジー分野を海外発注してきましたが、こうした事業形態のコスト削減がサービスの質を落とすことに気づき、現在はこの傾向に逆行しています。

これは主に外資系の銀行に見られる傾向で、こうした企業は高い専門知識を持つ日本人の求職者の採用を検討しています。求められているのはアプリケーションサポートやプロジェクトに対応できる人材で、後者については特にプロジェクトマネージャーやビジネス分析における職務の人材が求められていいます。

企業は活発な市場で当然のように強気の姿勢を貫いていますが、それでもコスト削減の取り組みを行っている分野があります。企業は平均で収益の4~6%をITに費やしており、そのうち半分はサプライヤーやベンダーへの支払いです。

日本の多くのFS企業は、開発作業だけでなくインフラマネジメントやアプリケーションテストにもベンダーを利用しています。しかし、企業の多くはベンダーのコストパフォーマンスがよいとは考えていません。そして業務プロセスの中で培われた知識や経験はベンダーにそのまま残りますが、ベンダーが別のプロジェクトに移れば、その知識もベンダーとともに去っていってしまいます。この問題を改善するため、保険会社と銀行機関はベンダーに代わってこの目的を果たす人材を採用し、こうしたサービスを社内で行うことを目指しています。そうすることで専門知識を保持、管理することもでき、長期的にコストも削減できます。

起業家人材が豊富になった現在も、日本の新興企業の状況は世界基準に照らし合わせるとまだ比較的小規模です。しかし、投資家の根気強さと活性化を促す政府のサポートプログラムにより、この状況は、特にアジアで最も活気のある新興企業地域となりつつある大阪では変わる可能性があります。

日本オラクルの前代表で、サンブリッジグループのCEOであるアレン・マイナー氏は、「世界の経済活動の中心地で、大阪ほど起業家精神のプラットフォームとして活用が進んでいない場所は世界でも他にありません」と述べています。

もちろん、これは業界にとっておおむね有益な状況であると考えられています。しかし、従来の銀行や保険会社にとっては、フィンテック(金融テクノロジー)の新興企業を相手に、し烈化する人材獲得競争を強いられることになります。そうした小規模企業は若い求職者の間で人気があることが明らかになっています。彼らはブロックチェーンや集約化された仮想通貨取引など、流行のテクノロジー企業で働きたいと考えており、これらの新興企業が醸し出す「格好よい」要素に惹きつけられています。

この状況に対抗するため、一部の社会的地位のある大企業、特に投資銀行と保険管理の大手企業は、自社で開発しているテクノロジーや、金融業界のトップ企業で働くことで得られるメリットやステータスのデモンストレーションを行い、自社ブランドの売り込みに努めています。

また自社の金融テクノロジーチームに人材を増補するため、チーム内でのダイバーシティを奨励し、女性をより多く採用することを最優先事項にする取り組みを行っています。ITは他の業種よりもジェンダーギャップが顕著な分野であり、そのバランスの是正が強く望まれています。このため銀行と保険会社は女性人材の採用を積極的に行い、男性と比べて力量が劣る女性が採用された場合は、必要に応じて追加で研修を行うなど対応策を講じています。

金融テクノロジーチームに女性を増やすため、産休などのサポートや、ワークライフバランスのメリットについて柔軟性を持たせるなどの対策への動きもみられます。例えば、従来の慣例では子育てをしながら仕事をすることが難しいと感じ、離職していたかつての従業員に連絡を取り、方針が変わったことを伝えて職場への復帰を促す例もあります。

スキルを持つ人材の不足に対応するため、一方で、企業は海外の人材を発掘しようとしています。技術分野やアプリケーションサポート分野では、求められる日本語スキルが最小限に抑えられるため、この分野での採用で顕著になっています。

しかしどこで人材を調達しても、幅広いポジションで金融テクノロジー部門を拡大したいという要望は変わりません。日本経済が成長を続け、企業がオンショアリング(海外委託していた業務を国内に取り戻すこと)に目を向け、一段とディスラプティブな規制が導入されることから、この分野全体で人材が必要となります。この状況はすぐには減退しないとみられています。

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