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イノベーションの文化を維持するためにはー コロナ禍で学んだこと

イノベーションの文化を維持するためにはー コロナ禍で学んだこと

 

今回のコロナ禍でさまざまな課題に直面したことから、企業は非常に短い期間でイノベーティブな視点を身につけ、新たに生じたニーズに対処することが求められました。今後、社会は「ニューノーマル(新常態)」と呼ばれる状態に帰趨すると思われます。しかし、今回の危機で身に着けたイノベーティブな姿勢を、これからも維持していきたいと考える企業は少なくありません。

2020年は、私たちの公私にわたる生活に地殻変動が発生しました。新型コロナウィルス蔓延による危機的な状況に対処するため、企業は急激な進化と適用を迫られたのです。ハイブリッド勤務や在宅勤務、オンライン会議、ソーシャルディスタンスやマスクの着用が一般化し、企業の多くがビジネスモデルや働き方を抜本的に見直さなければならなくなりました。

コロナ禍を生き抜くためにイノベーションは必須であった

コンサルティング会社のマッキンゼーは、899名の上級管理職を対象に世界規模で調査を行いました。これによると、コロナ禍が始まって以降、企業は、顧客やサプライチェーンとの関係構築や社内のオペレーションなどを中心に、3年から4年分の進化を一気に遂げています。また、設備投資の対象についてもデジタルやデジタル化対応製品の割合が、7年前と比較して増加しています。

世界中の企業が余儀なくされた変化の一つが、在宅勤務への切替でした。これについて生命保険会社、レゾリューションライフオーストラリアの最高技術責任者、ピーター・ヒストン氏は「他の企業同様に、当社も急激な変化に迫られました」と語ります。「私たちにとって大切なのは、社員が健康で良好な状態で働いてくれることです。そこで私たちは、社員が毎日自宅で安全に仕事しながら、チームとのつながりを維持出来るように対処したいと考えました」。

「私たちは毎月のようにエンゲージメントに関する調査を行い、社内の管理体制や必要な支援、仕事に必要な機器が十分に行きわたっているかなどを確認しました。また、オーストラリア国内で働く社員にモニターや椅子、ヘッドセットを提供するとともに、各リーダーに部下のウェルビーイングやパフォーマンスを支援するための決定権を与えたのです」。

PwC UKでも、同様の変化が見られます。同社の最高人事責任者であるローラ・ヒントン氏は、「コロナ禍前にリモート勤務していた社員は約10%でした。それが、ほんのわずかな期間でほぼ100%に達したのです。22,000人もの社員が在宅勤務に移行することは、想定外のことでした。しかし、テクノロジーに投資し、企業文化の変化もやむなしと考え方を切替ると、この特殊な状況にも比較的スムーズにも適応出来ました」と語ります。

ヒントン氏は、「僅か数ヶ月の間に何十年分かのイノベーションと変化が発生しました。コロナ禍が明けた頃には、フレキシブルな働き方や在宅勤務などの新しい習慣が中心となっているでしょう」と説明します。

投資運用会社 ラズボーン・ブラザーズでチーフ・ピープル・オフィサー代理を務めるキャサリン・ジョーンズ氏によると、投資運用の業界では、非常に短い期間でビジネスの在り方を抜本的に立て直すことが求められました。こうした変化の多くは、非常に前向きなものであったと同氏は振り返ります。「当社のような投資企業は、柔軟な働き方への対応に躊躇したと思います。生産性をどのように管理したら良いのか分からなかったからです。しかし、従業員たちは、在宅勤務中でも生産性やプロ意識を損なわずに働いてくれました」と同氏は述べています。「コロナ禍をきっかけに、新しい考え方が出来るようになりました」。

アジャイル(機動的)な姿勢がチャンスを生み出す

在宅勤務への切替だけではなく、ビジネスモデルを完全に変えてしまった企業もありました。また、コロナ禍対策の製品生産に着手するため、組織体制を変更した企業も世界各国で見られました。

ニュージーランドのフィアスコ社は、ミュージシャン向けのロードケースなどツアー用品の取り扱いを行っています。ライブハウスなどの活動が制限されたことで、同社は戦略を即座に見直すことを迫られました。既存のサプライチェーンを使いツアー用品以外にどのような製品を作ることが出来るのかを検討した結果、在宅勤務用のデスクや小売業向けの飛沫防止用プラスチック製パネルの生産を開始しました。

中国では、鴻海科技集団が生産ラインを再構築し、サージカルマスクの生産に乗り出しました。高級品を取り扱うLVMHグループは、DiorやGivenchyといったブランドの香水の生産拠点で、手指用消毒液の生産を始めています。また、韓国のシネコン大手CJ CGVは、ロボットや自動スナックバー、無人のチケット販売システムを活用し、完全非接触型の劇場づくりに成功しました。

これらの動きについて、戦略・イノベーションに関するコンサルティング企業であり、1995年にゲイリー・ハメル氏が米国で設立したストラテゴスのパートナー、マイケル・ヴァン・ホーヴ氏は、次のように語ります。「山積する課題を抱え、多くの企業は、製品やサービスの刷新・変更を迅速に実行しなければなりませんでした。企業の間に危機感が広がり、既存のインフラ基盤を強化する企業が多数見られました」。

「困難な時期には、ビジネスなどにさまざまな制約が課されます。しかし、これをチャンスと考えて、新しい働き方や活動の仕方を工夫して、より良い結果につなげることが出来る人たちが現れるのもこの時代です。状況の見極めが出来る人は、危機的な環境でチャンスを掴むことが出来るのです」。

イノベーティブな企業が勝ち残る理由

変化やイノベーションを奨励する文化を持った企業は、危機を克服出来るだけでなく、安定期に入っても高い競争力を発揮します。

ボストンコンサルティンググループが2,500名の上級管理職を対象に行った調査によると、イノベーションを経営的優先事項のトップ3までに挙げた回答者は、66%に達しています。しかし、その一方で、イノベーションを最優先事項とし多額の投資を実行する「committed innovator」(コミットメントの高いイノベーター)は、わずか45%に留まりました。

また、イノベーションの効果について戦略的観点からも財務的な観点からも懐疑的であるとする「sceptic Innovators」(懐疑的なイノベーター)も30%、戦略的価値と財務的価値の間にミスマッチがあると考える「confused innovator」(混乱したイノベーター)も25%に達しています。この調査結果は、「Most Innovative Companies Report 2020」(「2020年最も革新的な企業に関する報告書」)にまとめられています。

今回の調査で明らかになったのは、最も高い成果を挙げたのは、committed innovatorであったことです。committed innovatorのうち60%は、この3年間で発売した製品やサービスによる売上高が上昇したと回答していますが、confused innovatorで同様に答えたのは47%、sceptic innovatorではわずか30%に留まりました。

オーストラリアの政府機関であるイノベーション&サイエンス・オーストラリアが2020年に180社を対象に行った調査によると、中小企業のうちテクノロジーへの投資が進んでいる企業は、それ以外の企業に比べて収益面で年率3.5%、雇用で年率5.2%分高い成長を遂げています。

ポストコロナ時代も引き続きイノベーションを優先させるために必要なことは?

上記で説明したように、企業は対コロナ禍対策としての必要性からイノベーティブな考え方を身に着けました。では、これを企業文化として恒久的に維持するためには、どうすればよいのでしょうか。

1. これまでの成果を評価する

従業員の間に芽生えたイノベーションへの意欲を維持するためには、これまでに達成したことを認め、評価してあげることが効果的です。リーダーシップなどに関する調査やサービスを提供しているInstitute of Leadership and ManagementILMで調査・政策・方針担当部門のリーダーを務めるケイト・クーパー氏は、「在宅勤務へのシフトが生産性に対して長期的にどのように影響するかは、まだ判然としません。しかし、こうした変化に意欲的に取り組む従業員の姿勢は、支持すべきでしょう」と語ります。

また、同氏は、「多くの人々が新しい技術を非常に短期間で習得しました。同僚と協力する新しい方法を見つけ出し、パフォーマンスを上げることに成功しています。特筆すべきは、これらを全てオンラインを通して実行しているのです」と指摘します。

クーパー氏は、こうした適応力は、危機の克服だけに役立つのではない、と訴えます。私たちは、今後もさまざまな状況に対応を迫られることが考えられます。そのためにも、今回身に着けた適応性は、今後も維持していく必要があるのです。「新製品の売り出しや、新しいサプライヤーの確保、新たに導入したシステムに関する従業員へのトレーニング。どのような活動であれ、迅速で効果的に対応する能力があれば、競争力も高まるでしょう」。

2. 既存のビジネスモデルを疑い、刷新し続ける

前出の生命保険会社、レゾリューションライフは、2020年11月に、コロナ禍以降もイノベーティブな姿勢を維持しようと、新しい働き方を導入しました。ヒストン氏によると、「エンタープライズ・アジャイル」と名付けられたこの新しい働き方で、「社内の協力体制が根本的に変わりました。アイディアの出し方やソリューションの試験過程が透明化した結果、お客様にも素晴らしい成果を提供出来るようになったのです」。

さらに同社では、社内体制変更の一環として、「セレモニー」と呼ばれるイベントを定期的に開催し、さまざまな部門からのビジネスに関するフィードバックを共有しています。

「こうしたセレモニーの一つに、2週間に1度開催している『ショーケース』(特別談話)活動があります。このイベントには、CEOを始めとする上級管理職の他、全社員が参加出来ます。参加した社員は、こうしたイベントへの参加を通して、イノベーションの重要性や、変化を受け入れていく方法について、定期的に上層部の話を聴くことが出来るのです」。

3. 明確なメッセージを一貫して送る習慣を

米国のNFLやイギリスのマンチェスター・ユナイテッド、ドイツのバイエルン・ミュンヘンなどと取引のある国際的なスポーツ用企業、ファナティクス社のグローバル人事部でヴァイスプレジデントを務めるシェリル・フェニー氏は、今回のコロナ禍を通して、素早い変革を実現するためには、コミュニケーションと強力なリーダーシップが必要であることを同僚と共に実感した、と言います。

「(コロナ禍の状況下で)生活に対する不安もありました。また、当社は11ヶ国に拠点を置いていたこともあり、上層部は明確で力強いメッセージを一貫して伝えることが必要でした。さらに、グローバルオフィス全体のコミュニケーションの他、各国の拠点ごとにコミュニケーションを強化することも欠かせませんでした」。

フェニー氏はさらに、「今回学んだのは、従業員の福利厚生を中心に据えてビジネスを考えることが大切だということです」と続けます。「私たちは、グループの社員全員と定期的にコミュニケーションを行いました。管理職の社員は謙虚な姿勢で真摯に、共感しながら話すように努めました。多くの人たちが、個人的に経験した困難な出来事を皆と共有していました」。

今回世界中を席巻したコロナ禍ですが、ファナティクス社は過去の経験から、大きな変化に見舞われた時は国ごとに反応が異なることを知っていました。例えば、状況への適応が困難だったのが英国です。「従業員からフィードバックを回収して確認したところ、変化に対する抵抗感が他国よりも強く、変化をネガティブに捉える傾向が見られました」とフェニー氏は指摘します。

これを受けて同社は、英国の従業員のために、社外の講師を招聘し、変化に対応するためのワークショップを繰り返し開催しました。「アメリカのように、変化に慣れて、これを楽しむ習慣がある国では、このような対応は必要ありませんでした」とフェニー氏は回想します。

4. 手順の更新も忘れずに

そうは言っても、多くの企業は、一定の水準のサービスや製品を提供するために、それなりの手順を踏襲しなければなりません。これは、イノベーションを持続させるのと同様に大切なことです。前出のヴァン・ホーヴ氏は、こうした手順もイノベーションへの取り組み同様、急いで確立する必要があると語ります。

「私が働くストラテゴス社では、確固とした手順に基づいて発揮された創造性こそが、イノベーションによる発展を支えると確信しています」と同氏は言います。「手順とイノベーションは両立しないと思われがちですが、そうではありません。ビジネスの中核となる手順を持ち、共通の目的を持つことで、従業員全員がまとまりのある仕事をすることが出来るようになるのです」。

「当社のお客様も、2020年は、規定の働き方(政策や手続き)を『無視』してまで、従業員や顧客への支援を優先させました。製品やサービスのイノベーションを進める企業は珍しくありませんが、従業員の働き方についても同様の取り組みを進めなければなりません」。

人材スカウティング事業を世界的に展開するエンパクトベンチャーズ社の創設者であり、現CEOのコスタ・マヴロウラキス氏は、ヴァン・ホーヴ氏の意見に賛同し、「まず、自社が現在使用しているシステムやアプリ、製品を見直してみましょう。新しい仕事のフローを確立し、従業員の働き方改革を進めるにあたり、役立ちそうなものはありませんか」と問いかけています。同氏によると、「保有しているプラットフォームを、既存のシステムや手順に適応させることに成功した企業もあります」と説明します。「これをしなかった企業は、テック系のスタートアップ企業が提供する製品の購入や、プラットフォームの増強、新システム構築のための設備投資を行う必要に迫られました」。

再生エネルギーを取り扱うバルブ社は、コロナ禍の状況下で、昨年3月以降200名の増員を行いました。同社は、既存のプラットフォームを使用して、従業員のパフォーマンスを最大限に引き出すことに成功しています。同社の最高人事責任者、トム・フレイン氏は「仕事の進捗具合を把握するため、当社ではデータとフィードバックの双方を組み合わせて活用しました」と説明しています。「その一つが、ビジネスアプリのSlackです。Slackを毎日使用することで、離れて仕事をしていても効果的に仕事を進めることが出来ます仕事の効率性が低下した場合は、やり方を変更すれば良いのです」。

また、フレイン氏は、「迅速かつ効果的にビジネスを進めたいのであれば、まず従業員が使用しているツールや手順を調べ、必要に応じてこれらを変更することが大切です。効果的なビジネス展開に必要なのは、機動的なオペレーションです」と指摘します。

一方で、「組織は、イノベーションとプロセスの双方をバランスよく重視することが大切です。それは、人材の採用にも当てはまります。革新性と機動性はあらゆる仕事に不可欠ですが、詳細な調査を行い法令を遵守することも同様に大切です」と説明しました。

5. 前向きな失敗を認める

もう一つ大切なことがあります。システムや手順を変更してみたものの、実はそれが不要だったとき、それらを再び元に戻すこともあると思います。しかし、それを「後退した」とは、考えないで下さい。新しいアイディアが全て成功するとは限りません。従業員にも、このことを理解してもらうよう周知しておきましょう。

「ビジネスに応用する前に、そのアイディアについてよく検討しましょう。まずは予測や仮定を立ててテストを行えば、非常に効果的です。また、予測・仮定・テストというステップを踏むことで、アイディアを振り出しに戻したり、必要に応じて再考・修正したりすることも可能になります」。

レゾリューションライフ社では、実施した変更を従業員が振り返る「Retros」という機会を設けています。「Retrosは、2週間に1度の割合で開催されます。担当チームとい管理チームは、変更されたポイントを振り返り、順調に進行している部分と改善が必要な部分を共同で洗い出します」とヒストン氏は説明します。「私たちは、学びを大切にするとともに、物事には常に改善の余地があることを認識しています。Retrosは、まさに当社のこうした文化を反映したセッションなのです」。

「私たちが重視しているのは、試すこと、そして学ぶことです。『失敗してもいい、早くやってみよう』―これが私たちの合言葉です。新しいアイディアを試して結果を確認し、もし上手くいかなければ、販売前に違うアプローチで対応することも出来ます。大切なのは、自分たちが今何を学んでいるかを理解し、次に起こる変化を受け入れることです」。

エンパクトベンチャーズ社のマヴロウラキス氏は、実行したイノベーションに効果が見られず、これを元に戻すときは、社内外の関係者に明確に伝えることが大切であると説きます。「企業は、何らかの変更を実行する場合には、オンラインなどの方法で、変更した点やどのように変更されるのかを明確に伝えておきましょう。そうすることで、将来必要になったときは、それを元に戻すことも出来ます」。

コロナ禍が終わってもイノベーションを大切にする文化を維持したいのであれば、現状を打破するために、自社の従業員には何が必要なのかを深く理解する必要があります。企業もチームも人も十人十色で、同じ方法が通用するとは限りません。ヴァン・ホーヴ氏はこれについて、「企業は、この1年の間、従業員にとって本当に役立ったものは何かを調べ、理解することが必要です」とアドバイスしています。

「新型コロナウィルスによる危機が続いていた時期は、多くの企業がアンケート方式で従業員の状況調査を行っていましたが、これでは不十分です。従業員一人一人と接し、彼らが仕事の仕方を変革しようとした動機をより深く理解しましょう」と、同氏は締めくくりました。

本記事は、ヘイズジャーナルに掲載されたものを転載しています。

 

アレックス・フレイザー

チェンジグループ・ヘッド

アレックスは、KPMGからヘイズに入社し、ヘイズのチェンジグループに就任。アレックスはヘイズの変革能力をグローバルに開発し、主要な戦略的変革プロジェクトを推進し、持続的な変革がビジネスの成長を可能にするため、真にアジャイルな文化を維持することを担当している。アレックスは、20年以上にわたるコンサルタントとしての経験を持ち、大規模なグローバル変革プログラムを管理・主導し、複雑な環境下で持続可能な変化を定着させてきました。また、プロフェッショナル・コーチおよびストレングスベース・コーチの資格を持ち、さまざまなグローバル企業のあらゆるレベルのビジネスにおいて、人材に関する課題に幅広く取り組んでいる。

 

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