パンくずリスト

Expert Insights l Monica Parker

Q&Aインタビューl HATCH Analyticsの創設者モニカ・パーカー氏
将来の職場はどうなるのか

このQ&Aでは、HATCH ANALYTICSの創設者モニカ·パーカー 氏に未来の職場を決定づける要素について、最先端の視点からお話を伺いました。
 

フレキシビリティ

 
質問:フレキシビリティや自律性が高まることは、心理学と行動学の観点から、将来の労働者と職場の両 方にどのような影響を与えると思いますか?
 
OECDでは、柔軟性のある働き方は報酬以外で最も大きなメリットとなっています。人々は柔軟性のために は賃金カットも厭いません。自律性はパフォーマンスを高め、幸福感を高めます。組織が完全に崩壊する おそれがなくなった今、この大規模でグローバルなリモートワーク実験により、人々は柔軟に働けるだけで なく、柔軟に働くことを望んでいることがわかりました。したがって、人は柔軟に働く権利を持っており、そ の要求はより明白になると予想されます。私は、このことをとても肯定的に捉えています。不十分な管理と 職場の監視にはリスクがあることがすでにわかっていますが、全体としてこの変化は、人々、組織、コミュ ニティに経済的、社会的、心理的なメリットをもたらすはずです。
 
質問:多くの組織では、特にリモートワークが生産性に影響を与えることを懸念しています。どうすればこ の懸念を払しょくできるのでしょうか?
 
私の最初の質問は、組織が本当にこの懸念を払しょくしたいのか、それとも組織がより快適に感じる、これ までの道を単に歩み続けるための言い訳にしたいのか。2 番目の質問は、知識労働者組織における人間の生産性が定量化できるのか、あるいは定量化すべきなのか。パフォーマンスはともかくとして、コールセ ンターやプロセス主導型の環境以外で生産性を定量化することはほぼ不可能です。目標としてのパフォー マンスは、より全体的なものとなり、その結果、純粋な出力測定値だけでなく、幸福の測定基準も考慮 されます。しかし、コールセンターや保険査定員のようなプロセス主導型の環境を見てみると、柔軟な労 働が生産性を向上させることはデータから明らかです。このコロナ禍中に私たちが行っていることは、本 当の意味での柔軟な働き方ではないということを認識することが重要です。なぜなら、私たちの自主性が 奪われてしまっているからです。そのため、地域によっては、ストレスレベルが極めて高くなり、介護の責 任や家庭学習の増加と相まって、この時期に生産性が低下するのは当然のことです。それにもかかわらず、 HATCH などが実施している調査によると、このようなひどい現状でも、ほとんどの人が高いパフォーマンス を発揮していると自己申告していることがわかっています。
 

テクノロジー

 
質問:以前、「今日、すべての企業はテクノロジー企業である」とおっしゃっていましたが、その意味と意義について詳しく教えてください。
 
私が言いたかったのは、知識労働者企業はすべて、その生死をテクノロジーに依存しているということです。E メール、ワープロ、会計、分析などはいずれもテクノロジーに依存しています。また、テ クノロジーがうまく機能しない時には、どうやって進めればよいのか途方に暮れることも多いでしょ う。しかし、チェンジマネジメントやオフィスデザインでは、多くの場合、技術的な意味合いを詳し く検討することは最後までありません。IT は、空間や行動と並んで、仕事の重要な要素の一つとして捉えなければなりません。この要素を排除すると、リスクにされます。
 
質問:アジアの多くの企業は、デジタルトランスフォーメーションの取り組みの初期段階にあります。これ らの企業に対して、何かアドバイスはありますか?
 
まず、存在する問題を実際に解決していることを確認するために証拠を収集し、偽りのない解決ストーリー が確実に語れるような方法で解決することです。次に、どのような改革もそうですが、人々を巻き込み、取 り組みに参加させる必要があります。ソリューションストーリーに賛同させる必要があります。3 つ目に、「で きるからといって、やるべきであるとは限らない」ということを決して忘れないでください。テクノロジー は倫理上のリスクをはらんでいます(企業の監視やある種の侵害的 AI のように)。リスクが発生した場合、 組織は自らの組織倫理に忠実でなければなりません。
 

スキルアップ

 
質問:回答者の 71% が、コロナ禍が発生した後、リスキリング(別の仕事で成功するために新しいスキ ルを学ぶプロセスとして定義)がより重要になったと回答しています。この点については、どのようにお考 えですか?
 
転職をタブー視する考え方は、急速に消滅しつつあります。今の若い人が社会に出ると、結果として5つ の業界で 17 の仕事に就くことが想定されます。こうした転職の一部は、自動化のような予測可能な要素と、コロナ禍のような予測不可能な要素の結果によるものです。それでも、仕事と産業間の人材の移動は 次第に正常化していくことでしょう。企業は、特定の職務内容や役割ではなく、スキルクラスターによる採 用に目を向け始めると思います(このシフトをサポートするために、学校や大学はスキルクラスタープログ ラムを提供するでしょう)。企業は、転職者に対して、これまで以上に支援の手を差し伸べる必要が有ります。 履歴書に書かれたスキルが通用しなくなったというだけの理由で、献身的でやる気があり、企業文化にも 適合する人材を失うのはとても残念なことです。
 
質問:最大のスキルギャップは、実は人間性を形成するスキルの周辺にあると以前おっしゃっていました。 成果に直結するスキルだけに焦点を当てた職場文化の中で、どうすれば人間性を形成するスキルの獲得を 奨励できるのでしょうか?
 
それは教育によります。人間性を形成するスキルの適用性に関する研究があります。それは、リーダーがそのスキルに重点を置くことに積極的かどうかということです。そして、その意識は高まっています。コミュニケー ション、共感、傾聴を重要視する CEO が増えていますが、これらは教えられるスキルというよりも、その人 の性格に内在するものであると考えてしまう CEO が多いことも事実です。
 

働きがい

 
質問:回答者の 90% が、働きがいや仕事の意義が従業員のモチベーションを高める上で重要または非 常に重要な役割を果たしていると回答しています。企業はどのようにして従業員を鼓舞することができる のでしょうか?
 
主に2つの方法があります。1 つ目は、組織の目的を理解し、それに忠実に従うことであり、2つ目は、 組織内の各個人がそれぞれの目的につながるように支援することです。これを行うと、自然に調整が行われます。また企業文化的には、高い業績を上げている人材であっても、将来を見越すと適していないことが明らかになります。このような認識と洞察によって、整合性のある目的主導型の文化を育むことができます。
 
質問:組織の目的を設定したり維持する責任は誰が負うのでしょうか?経営層や人事部でしょうか?組織 の中で誰がこれを推進すべきなのでしょうか?
 
文化とは、一連の行動から見えてくる「目覚め」のことです。自分は倫理的で、責任感があり、思いやり があり、透明性があるなどと口で言うのは簡単ですが、行動が伴っていなければ、文化とは言えません。 各自の行動が集合体となって文化を形作るのです。そして、文化が拡散している場合、つまり、意欲的な文化に沿った行動が散発的であるか、散在している場合には目覚めは得られません。この場合、文化はそれほど大きな力や影響力を持つことはないでしょう。しかし、これは自然に起こることではありません。 多くの場合、人々は行動に価値を見出すための指針を必要としています。たとえば、透明性が価値なの であれば、ほとんどの人は、自分の職務を見て分析して、それぞれの行動において、どうすればその価値を明らかにできるか支援が必要になります。
 
さらに、もし人々が規定した価値に反して行動している場合、観察者に報復することなく責任を負わせる 仕組みがあることを保証すべきです。結局のところ、経営者は企業文化に整合性のとれた行動を支援す る明確な戦略を策定する責任があり、リーダーは人々に説明責任を負わせる責任があり、そして最終的 には、すべての個人に「目覚め」を生み出す責任があるのです。
 
仕事の将来
 
 
質問:リーダーシップと職場のヒエラルキーは、今後どのように進化していくと思いますか(あるいは進化 すべきだと思いますか)?
 
ヒエラルキーには目的があります。人はそこに安らぎを見出します。それは秩序と明快さを生み出します。 しかし、以前のように、それを抑圧のメカニズムとして使うことで苦しめることは、もはやないでしょう。人 類は自己実現の旅の途中にあり、それは敬意への大きな期待を意味します。もしヒエラルキーが敬意に基づいていて、ヒエラルキーの上位に到達した人たちがそこにいるのは、公正で公平なシステムがあるからだとすれば、ヒエラルキーは有効で有益な目的を持ち続けるでしょう。
 
質問: 回答者の 71% が、変化を積極的に受け入れることは、組織の将来性を保証するのに役立つと答え ています。企業は、どうすれば変化を積極的に受け入れられるようになるのでしょうか?
 
変化を積極的に受け入れること、そして変化に対応できることが、組織の将来性を証明する唯一のものです。 コロナ禍がそのことを証明しています。グローバル化によって、アイデアが急速に拡散しプロトタイプが作 られるようになったため、変化はかつてないほど急速に起こっています。企業が市場での適用力を維持す るには、変化に慣れる必要がありますが、変化のために変化するのではなく、それが役に立つときや必要 なときにだけ変化する必要があります。そしてそれは手続き的な変化だけでなく文化的な変化でもあるの です。柔軟な働き方や、ダイバーシティへのサポートのような変化に対して、必要性を見出せない文化は、 市場から見放される運命にあります。
 
 
モニカさん、ご多忙の中お時間をいただきましてありがとうございました。
 
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