インサイドストーリー:日本のHR業界の現状

 The Inside story of HR in Japan image 2

「アベノミクス」と「ウーマノミクス」-現在、日本政府が進めるこの2つの政策は、適切に推進されれば日本経済の大幅な成長、雇用拡大につながる可能性を秘めています。国内経済や雇用の先行きを巡ってはさまざまな問題が山積しているだけでなく、深刻化する人手不足はHR業界にもこれまでは考えられなかったような影響をもたらしています。 

いくつかの事実が、アベノミクスが間違いなく成果を上げ始めていることを証明しています。今年8月の政府の月例経済報告では、国内の景気は3カ月連続で「緩やかな回復基調が続いている」とされ、ジャパンタイムズ紙によれば、現在の景気拡大は1965年から1970年まで57カ月間に及んだ「いざなぎ景気」を抜いて、戦後2番目の長さに達する可能性が高まっています。

それでも、個人消費に支えられた現在の景気拡大には賃金の上昇が伴っていないことが懸念材料となっています。6月に発表されたOECDの経済見通しによれば、日本国内の賃金上昇は「依然として低調」なままで、ヘイズもこの点を問題視しています。

ヘイズが先ごろ発表した「2017年版 ヘイズ・アジア給与ガイド」では、次回の査定で期待できる昇給の幅について、日本では「ゼロ」と答えた回答者が35%に達しました。アジア各国のうち、シンガポールが13%と日本に次いで高かったものの、他のすべての国では10%以下に留まっています。

こうした状況は採用市場にも反映されており、HR分野で転職を目指す求職者の多くは、いくつかの専門職を除き、大幅な昇給の提示は期待できない事実に直面することになります。

中には、その代案として、キャリアアップの機会を提示する企業もあります。ヘイズの給与ガイドによれば、転職の最大の動機が「キャリアアップの機会」の有無であり、転職を考える理由として、回答者の46%が「今の職場ではキャリアアップが望めない」ことを挙げています。

しかし、全般的な傾向として、柔軟な雇用形態を提示する企業は間違いなく増加しています。その背景には、長時間勤務の末に自殺に至った“過労死”事件が国内外のメディアで大きく取り上げられたことを受け、政府が長時間労働の是正に向けて動いていることも影響していると考えられます。

一部には、こうした柔軟な雇用形態、時短の制度を整えたり、在宅勤務を選択できるようにする企業もあります。しかしこうしたメリットは必ずしも国内の労働者のニーズを反映したものとは言えません。ヘイズの給与ガイドの調査によれば、転職を考える理由として49%が「給与や福利厚生の向上」を上げているのに対し、「ワークライフバランスの欠如」を上げた回答者は14%に過ぎませんでした。

HR部門を中心として、こうした柔軟な雇用形態を導入する理由の1つに、女性の職場への取り込みを促す意図があり、とりわけ念頭に置いているのが子育て中の女性です。

「ウーマノミクス」を推進する政府が、雇用や賃金における男女格差の是正に向けた取り組みの一環として掲げているのが「2020年30%」の目標です。未だ活用されていない資源の最たるものである日本女性の就業率が男性並みに上昇するだけで、GDPの15%上昇が望めるという安倍首相の主導のもと、政府は2020年までに指導的地位における女性の割合を30%に拡大するという目標を掲げています。

しかし、アベノミクスに比べるとウーマノミクス政策の推進は思うように進んでいません。逆に、政府の女性閣僚比率は7%、民間企業における女性の役員比率は15%まで目標が引き下げられるなど、世界経済フォーラムによる2016年の「世界ジェンダー・ギャップ報告書」で日本は111位と、前年から10ランクも低下しています。

多くの企業や組織ではこうして引き下げられた目標すら達成できておらず、女性管理職の登用をさらに進めることが求められています。一部には勤務時間そのものを根本的に変革することで要請に応えようとする企業も見られます。ダイバーシティの実現に向けたこうした動きは、次第にHR分野でも見られるようになっており、何とか女性管理職比率の目標を達成しようと、女性に限定して管理職の求人を行う会社さえ出現するようになっています。

女性管理職の登用が進むか否かに関わらず、日本が労働力不足の問題に直面していることに変わりはなく、ますます強まる売り手市場の状況に乗じてキャリアアップを図ろうとする人たちが転職を繰り返すという新たなトレンドが生まれています。

昔から日本では、何社もの会社を渡り歩くことは忠誠心のなさと捉えられてきました。しかし今のような人手不足の状況にあって、終身雇用はもはや過去のものであるという考え方が次第に広がり、年間転職者数は7年連続で増加し、2016年には306万人に達しました。

こうした流れに対抗するため、企業側はあの手この手を使って、何とか従業員のつなぎとめを図り、給与体系の見直しやより洗練された人材育成プログラムを用意するなどして人員を強化しようとしています。

このことはつまり、HR部門にこれまで以上の役割が求められるということでもあります。ヘイズも2017年版の給与ガイドでこの点を明確に指摘しており、今後1年間、HRビジネスパートナーの需要が極めて高い状況が続くと予測しています。すでに多くの企業が中堅レベルのHRビジネスパートナーの求人を行っており、組織に留まってよりシニアレベルの役割を担っていける人材が求められています。

同時に、より専門性の高い職種でも需要が高まっています。教育&人材開発、タレントマネジメント、組織開発、給与&福利厚生といった分野で社内の人材を強化しようという動きが見られ、この傾向は今後1年間続くと考えられます。

HR部門では女性を積極的に採用すると同時に、過去半年から1年の期間においては、ジュニアレベルのHR担当者を採用するケースが増えています。組織におけるHR部門の役割が次第に重視されるようになり、HR担当者の役割が単に管理的な業務を担うだけではなくなっていることから、早くからはっきりとした目的意識を持ってHR分野への転職を図る候補者が増えており、HR部門は以前よりも若手中心の業界になりつつあります。

若手の候補者の流入が見られるようになったとは言え、HR業界もスキル不足の状態が続いていることに変わりはありません。このため企業側では採用基準を緩和したり、別の業界で経営の一端を担ってブランドの認知度を高めるなど、HR担当者として高い実績を持つ候補者の採用に動いたりしています。HR部門の場合、多彩な経験を積んだ人材を揃えることには利点が多いため、こうした候補者の需要もますます高まっています。

しかし、高いスキルを持った人材を得るには、素早く動かなければなりません。そのような候補者であれば当然、これからいくつものオファーを受けると考えられ、企業側としては給与、福利厚生、その会社ならではのアピールポイントを含めて十分な待遇を用意し、迅速にオファーを行う必要があります。採用に至るまでにいくつもの段階を経なければならないようでは、候補者は興味を失ってしまうかもしれません。希望する候補者を確実に採用したいと思うなら、選考のプロセスをできるだけ簡素化することです。ちょっとでもモタモタしていようものなら、せっかくの人材が競合他社にさらわれるかもしれません。

これらすべて考慮すると、今はHR業界での転職を考えるには非常にいい時期だと言えます。
キャリアをスタートしたばかりの若手HR担当者にとっても、すでに経験を積み、さらなるキャリアアップを目指すスペシャリスト、仕事と家庭のバランスをかじ取りする必要のある女性、あるいは経営幹部への昇進を目指す人にとっても、今ならそれぞれのニーズに合ったポジションが見つかる可能性が非常に高いと言えます。ただし、残念ながら大幅な昇給アップを望まないという条件付きです。

本レポートの詳細について、またはHR関連の求人、採用についてのお問合せについては、ヘイズ・HR部門リクルーティイングマネージャー、シへナ・ホン(Saehena・Hong)(Saehena.Hong@hays.co.jp)宛てに電子メールでお問い合わせください。